渡り鳥
ただのみきや

リンゴを木の枝にうまく乗せることができない

その人は寒空に部屋着のまま 油断したのだ

やっと乗せ終えたところを見計らって挨拶すれば

かじかんだ「コンニチワ」と鼻水少々 そそくさと家の中へ

餌なんかやらなくても野鳥観察には事欠かないこの辺りは

鳥に限らず動物も夏には虫も 好き嫌い共々堪らないほど

(リンゴなら何時でも貰ってあげたのに……)

人目がない今がチャンスかと思いつつ 足元に視線を落とせば

そうかこいつかと 合点が行った

オレンジ色の鳥の糞が白い雪の上に幾つも幾つも

この辺りは並木も小学校のグランドの周りも

ワイワイと朱い実をぶら下げるナナカマドの国

毎年この季節にはツグミたちが大挙して食べに来る

シベリア行きの旅の前に栄養を蓄えるのだろう

気のせいか例年よりもみんな肥えているように見える

中には酔っている奴もいるようで

 
すぐ側でくちばしを開けたまま ぼーっとしている

すっかり逃げ遅れているのだが

それでも通り過ぎるときゆっくりと並木へ飛び上がり

何が可笑しいのか ”ケケケケケ“ と笑うのだ

去年の秋の気候のせいで

ナナカマドの実が発酵したのだろうか

この季節はヒヨドリたちでさえおとなしく見えてくる

かわいい姿だが地元の鳥たちには

港街で酔って騒いでいるロシア船員ってところだろう

ほらまた ”ケケケケケ“って 何が可笑しいのやら

気にならないと言えば嘘になるから

背伸びして 萎びたナナカマドをもぎ取って

ちょっと 舐めてみる





              《渡り鳥:2015年2月18日》









自由詩 渡り鳥 Copyright ただのみきや 2015-02-18 22:10:31
notebook Home 戻る