ポケットのひと
たま

 ポケットは好きだ。
 もし、この世界からポケットがなくなったら、ぼくはきっと、お猿さんになっちゃうだろう。いちばん好きなポケットはダウンジャケットなんかについてる、ハンドウォームポケットっていうやつ。手袋したままでも入るおおきくて深いポケット。冬の散歩には欠かせないし、両手を突っ込むとからだがひと回りおおきくなったような気がして、なんだか愉快になる。
 若いころはブルージーンズをよく穿いた。まだお腹もでてなかったし、細くてぴちぴちのやつが好きだった。ブルージーンズにはポケットが五つあった。ファイブポケットジーンズともいうらしいけど、脇ポケットと、尻ポケットとがふたつずつあって、もうひとつ、脇ポケットのオマケのようなちいさなやつ。そう、ウォッチポケットとか、コインポケットとかいうやつ。
 ぼくはギターを弾くからいつも白いピックを入れてたけど。なるほど、例の鎖のついた古風なウォッチだったのか。残念なことに、鎖のついたウォッチには縁がないけれど、コインならいつも持て余してる。

 ところで……つい、さいきん、どうしても気がへんになるポケットがあって悩んでる。気がへんになるのは眠れないからで。ほら、パジャマのポケット。あれって、なんだろう……。さあ、これから寝ちゃおうってときに、ポケットに何入れるの? それを考えると眠れなくなる。
 そもそもポケットを思いついたひとって、何を入れたくて思いついたのだろうか。それと、いつのころのひとなんだろうか。たぶん、アジアのひとではないと思う。となると西欧人ということか。高校生のころに見たロミオトジュリエットにはポケットはなかった。そうなるとそれほど古い話しではなさそうで、リンカーンはポケットのついた背広を着ているから、そのちょっと前か? としたらコロンブスの時代かもしれない。
 あ、そうだ。カンガルーを発見したひとかもしれない。

 まあ、それは冗談にして、問題はパジャマのポケット。
 いろいろ考えてみたけれど「夢の続き」を入れておくってのはどうだろうか。夢って肝心なところで眼が覚めちゃうから、どうしても続きを見たい夢ってのがある。だからその続きをポケットに入れとくことができたら、と思う。うん、それしかないかも。
 ということで、もう二度と悩まないように、パジャマのポケットに名前をつけることにした。
 ドリームウォームポケット。
 ね、いいでしょう? あっためるんだ。夢を。
 でも、そうなると、ひとつでは足りないような気がする。人間って欲が深いからね。五つぐらいほしいけど、さいきん、忘れっぽくなったし、観賞期限なんてのもあるかもしれないから、うん、三つでいいかな。あ、でも、ポケットのおおきさも問題だし、ボタンもあったほうがいいかもしれないよね。
 どうしよう……。
 ん……やっぱし、悩むなあ。













散文(批評随筆小説等) ポケットのひと Copyright たま 2015-02-16 14:11:35
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