思い出
……とある蛙

懐かしいという言葉を話すと
鼻の奥がツンとくる。

春はまだ来ないが、
冷たい風が吹いている。

君と二人、風に乗って行けるものなら、
君の生まれ故郷のこけし橋の欄干に行きたい。

僕には故郷などなく、都会の中の谷のある町。
高台のお屋敷町の外れの崖の下の子供だった。

あの頃の七人家族は
もう二人っきりになってしまった。

思い出は美しいが、現実はゴミだらけだ。

過去には戻れないが、
未来の終着駅はもう透けて見える。

そして、二人で過ごすうち、
思い出は指の隙間からこぼれ落ちて行く。

でも神さまが幾らかの綺麗な思い出を残してくれるなら


神様が少しだけ残してくれるなら、
その思い出だけを頼りに、これから生きて行くのも悪くない。


自由詩 思い出 Copyright ……とある蛙 2015-02-15 16:32:41
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