黎明
たちばな まこと

多摩の春は立ち
梅の便り
雪の予報
氷のうさぎをせがむこども
声は眠らず
温もる床を抜け出る
もう未明なのに
待ちわびている

あなたが呼吸を恐れ
感じすぎるのだと胸を震わせる
わたしは声を
大丈夫だと
吸って、吐いて、あなたはもっと吐いてもいいと
そのふくらむ背と
この走りはじめた脈をさする
視界にはさめざめと雨
まだ遅い黎明を
待ちわびて

愛してしまえば感じ合えるのに

雪の予告に凍える夜
眠れるよう
衣擦れを伴いあなたが重さを預け
泣いているからだをなぞる
ぼくの手は愛されているよ
ひたむきな手
ずっとおいていて欲しい
かなしいところに
腕を伸ばすと
わたしから春のにおいがする

こどもを撫でるように
こわいものを撫でてやれればいい
あなたは眠ればいい
眠りが恐れを癒せばいい
わたしは眠れなくていい
愛することを感じられる
雪はまだ降りてこない
音を包み 白く許され
ふるさとに似た
黎明を待ちわびている




2014.2.9


自由詩 黎明 Copyright たちばな まこと 2015-02-13 22:12:11
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