World's End Rhapsody
やまうちあつし
一 世界の終わり
世界が終わるという予言を
紹介するテレビ番組を見て
下の娘が心配している
「ねえー、終わらないでしょー?」
ぐずぐず絡む娘をあしらいながら
妻は蒲団を敷いている
上の娘は気にせぬ素振りで
母親の後ろをついてまわる
軒下に遊びに来ていた近所の猫が
一声鳴いた
「near」
二 世界の終わりの続き
さっきまで
終末の予言を怖がっていた下の娘が
今はもうすっかり忘れて
鼻歌交じりで飛び跳ねている
いい気なものだと眺めていると
一つ違いの上の娘が
机に向かってふさぎこんでいる
訳を尋ねても何も言わない
涙を浮かべて突っ伏してしまう
今度はこちらが? と妻に話しかけるが
洗い物をしているためか
返事がない
私は庭に居座った
猫を追い払いにゆく
三 世界の続き
風呂上りにフルーチェを食べて
すっかり機嫌の直った娘らは
くだらない戯れ唄を歌って叱られた
やはり賛美歌で守ろうか
皆が寝静まった頃
私は一人眠れない
私も幼い頃
世界の終わりの予言を聞いて
眠れなくなったりしたものだった
今の私も
三日に一度は眠れない
あの頃と同じじゃないか
家族を起こさないように
猫の歩みで階段を昇って
二階の部屋へ
パソコンを立ち上げる頃には
すっかりひげがピンと伸びている
わからないかにゃあ
ベランダで声がするので
カーテンを開けると
さっきのチェシャ猫
こんなとこまで
上がってきたんだ
私は思わず尋ねてしまう
終わらにゃいよね?