ひとり 歩く
木立 悟
崖の上の
鱗に覆われた洞から
背には火
腹には羽
ひとりの子が空へ這い出る
冬の目
冬の耳
走る光
あらゆる指が
海に着く時
水が夜に螺旋を描き
底へ底へとまぶしくなる
やわらかく細い道のりを
光は静かに駆け下りる
波のはざまの声と色
砂の数だけまたたいている
崖から海へ落ちるものすべて
海になることなく漂っている
洞から吹いてくる風が
砂浜の星を消してゆく
ひとり歩く子の足跡に
星は再び現われる
羽は浪にさらわれた
水平線まで見送った
火は背に未だ燃えさかり
明けない夜を照らしていた
水 声 色 星 風 鱗 羽
砂につづく足跡のなか
いつまでも話しつづけていた