流星群
ホロウ・シカエルボク





あそこに星が、と
きみのさししめす指があわれで
ぼくはこころで百万粒ほども涙をながす
なにもかもまっしろなこの部屋で
きみはそうしてはるかかなたを眺めているのか


生きるために必要ななにかを
きみに送りこんでいる透明な細い管
セロファン紙のような肌に穴をあけてそいつを繋がなければ
きみはきっと明日の目覚めさえむかえることは出来ない
精密に調整された室温の中に居ても
きみはまるで氷の上で凍えているみたいだった
「それはすでになくなってしまった光なのだよ」と
ぼくは言おうとしたが
きみがきっとそれを知っているのだと思って
ひとつ
うなずいただけにした


時刻は午前1時をすこし過ぎたところで、そう
その日は特別にそんな時間まで起きていたのだ
どこかからやって来る流星群が
その夜いちばんたくさん見えるってはなしだったから
「まだかな」「まだだよ」
「2時を回るって言ってたよ」「そうなんだ」
起きていられるかな、ときみは不安げに
寝てるといい、とぼくは笑いかける
「かならず起こしてあげる」
「あなたがかならずって約束したときは決まってしてくれないのよ」と
きみは意地悪に言って笑う
なんど、こんな会話をしただろう、そして
あとなんど、こんなふうに出来るのだろう
流星群を待っているのに
来なければいいと思っていた
きみのために流星群を待っているのに


空が曇りがちだったから、きみは不安そうだった
「明日は遅くから雨って言ってたわ」
大丈夫、とぼくは保証する
「ぼくの見た天気予報じゃ流星群は見られるって言ってた」
きみはクスクス笑って
「あなたはいつだって朝の予報しか見てないじゃない」
天気予報なんて、とぼくは異議をとなえる
「そんなに大きく違ったりはしないものだよ」
きみがまたなにかを言おうとして、小さく叫んだ
「見て」
流星群が正面の空に見えた
かぐや姫のおむかえみたいだった
あの、光を見たかぐや姫の年老いた育ての親たちは
どんな思いであんな光を見つめていたのだろうか?
いつものようにそんな疑問を口にしようとして
あわてて口をむすんでいたんだ、ぼくはあのとき


星なんて見えなかった、そんなものよりもっとずっとたくさんの悲しみが
ぼくのこころには降りそそいでいたのだから




あの日とおなじ流星群が
今夜、ぼくの窓辺にやってきて
深海みたいな空をぐちゃぐちゃに濡らす
まるで引っ掻いた硝子みたいで
ぼくは


自分のこころが割れないように身じろぎもしない







自由詩 流星群 Copyright ホロウ・シカエルボク 2015-02-11 23:35:15
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