希望
イシダユーリ
よだれをとめられないひとだっている
たたきあう肩がないひとだっている
めぐっていかない星だってある
からだじゅうに小さい脳みそが埋め込まれてるみたいで
走りたい走りたい走りたい走りたいこれが
小さい脳みその欲望なのかからだの欲望なのかわからない
泣きながらわたしたちはいつ泣くべきかを勉強しすぎてきたから
ひびわれたような男の歌声に
くずれおちるからだから受けた血に
強すぎる振動に
泣きながら
わたしたちのなにが泣きたがっているのかわからずに
真っ暗な部屋の中で同じようにひかりつづけるテレビから
こどもは野ざらしにされた死体をみた
こどもは野ざらしにされた生首をみた
こどもはどこまでも続く門をみた
こどもはどこまでも続く行列をみた
おなじかたちにみえるひとびとをみた
わたしたちの欲望はどこまでも暗い
走りたい走りたい走りたい走りたい走りたい
わたしたちはひとしく惨めだ
走りたいけれどわたしたちはひとしく
ひとしく群れひとしく壊しひとしく走りたい
希望 走りたい
希望 そのあとに眠りたい
希望 起き上がることを求めたい
希望 起き上がりたい
希望 起き上がりたい
希望 起き上がりたい
希望 起き上がりたい
走りたい走りたい走りたい
希望 拳を握りたい
よだれをとめられないひとだっている
のぼっていかない階段だってある
よだれをとめられないひとだっている
たべてもたべてもたべても
たべてもたべても
よだれをとめられないひとだっている
希望
わたしに空はないけれど
わたしの空につかまっていろ
わたしに尻尾はないけれど
わたしの尻尾につかまっていろ
わたしは布ではないけれど
わたしの布でよだれをずっとふいていろ
わたしに空はないけれど
わたしの空につかまっていろ
希望
よだれをとめられないひとだっている
よだれをとめられないわたしたち
よだれをとめられないわたしたちを
希望
走りたい
空はつづけ
わたしには空はないけれど
わたしの空につかまっていろ
希望
走りたい
走りたい
走りたい
よだれをとめられないわたしたち
わたしとおまえのよだれのながれだす場所も
ながれおちる場所も違うけれど
走りたい
走りたい
わたしは黙りたくない
希望
わたしに空はないけれど
わたしの空につかまっていろ
どこにも連れて行ったりしない
希望
わたしは黙らない
2006.4.