神の名前
atsuchan69
火の年に、
大水の声を描く
詩人は、
自ら指を燃やして、
轟く稲妻にも似た
その声を、
陽に焼けて古びた愛と、
数々の秘密と背徳を埋めた土に
透明な色のインクを滴らせ、
尖った刃のような大人しくない言葉で
斃れた灰色の建物の壁に
地響きのような大水の声を描く
やがて神々しい声とともに
もくもくと立ちのぼる
白く巨大な原子雲の見下ろす、
かつては美しい街だったこの世の地獄
人々の営みはもうなかった
それは、
インディアンたちにしたように
容赦なくベトナムで行ったように
イラクで大勢の人たちを殺したように
広島と長崎で女や子供たちを焼き殺したように
平和を纏った狼どもが、街中に火をつける
台本通りの戦争のために
敵にも味方にも武器と弾薬が配られる
純朴な羊どもを戦わせるために、
さまざまな事件やテロを繰返した
それは、まさしく残虐、非道だった
※
うたう声が、
彼処できこえる
その歌に、
大水の声が重なると、
力づよい音のひびきが
多くのことばと結ばれて
やがてそれは
異言でつづられた
祈りのハーモニーへとかわった
すべての思想や宗教が、
牢獄の足枷だということも
うたう人々は、
歌いながら自然に悟った
歴史は、
支配者にとっての
都合のよい嘘で固められていた
姦淫を行うのと
姦淫を行う者を殺すのと
いったいどちらが罪なのか?
理解できる者は、手に持った石を捨てなさい
同性愛を行うのと
同性愛者を殺すのと
いったいどちらが罪なのか?
理解できる者は、手に持った石を捨てなさい
神を信じないのと
信じない者を殺すのと
いったいどちらが罪なのか?
理解できる者は、手に持った石を捨てなさい
全地を統べる神々は、けして強大ではなかった
むしろ彼らの怯えが
「残虐、非道」だった
この世界に在るものが
一切、彼らの所有する財産ではなく
全人類が共有するものだと
世界中のすべての人々が知ってしまった時、
神々の支配はその効力を失う
見よ、新しい天国が降りてきた
煌びやかな宝石を散りばめた天国の門には
「神の名前」が記されているという
その名は――
言葉にはできない
という意味の‥‥
文字通り、
とても言葉にはできない
涙で描かれた、
崇高な文字が記されている
引用:ヨハネによる福音書8章7節〜9節