観測者の逸脱
ただのみきや

真昼のまま凍りついた
ひとつの情念
名づけようもない一編の詩を装い

光明な思想が引きずる裳裾の陰鬱
石仏のように摩耗して正体もなく

言葉は羽 風に舞い
人は水 流れ集まる低く低く色を濁し

切り口が噛み合わない
肉体を繋ぎ合わせようとして
紛れ込んだ脚
紛失した腕
誰が誰をそうして誰か
解らないまま解った夢を見て眼裏が湧いて

雄弁で躍動的
お喋りで忙しない肉体を
うすい被膜の時間のずれで覆った
あなたが記憶を出入りする
二月の青すぎる空 剃刀の鞭

常春の庭 ぬるむみずに
還らざるモノの卵が孵るオト
喰らうモノが一斉に押し寄せるオト
擬音語にすらならないオトオトオト……

 風邪を引いたふりをする

侵犯されている
胎児になって視ることを拒絶する
良心の内膜を手探りし 
ひとつの痛みを見つけては
何度も 何度も まさぐっている
自己憐憫という自慰に終わりはなく
いくにいけずに変異する
怒号破壊自傷自嘲 くう はく 順不同也チャカポコチャカポコ

 風邪をこじらせたふりをする

ちいさな茶碗から
ましろな粥の湯気
うめぼしのかけら少しだけ

削り取られた雪の壁
遠く高く聞こえない凱歌に焦がれる人間の病を
引きはがす冷たい手

答え(自分)を捜しても見つかりはしない
天の下何処にも
溢れ返る無数の問いに
己を当てはめ続けて矛盾の山を築く
ろばの顎骨で死体の山を築いた男のように
利口ではない野蛮で神聖な生き方
いつか一つの意味を見いだすならそれは――

 ウナサレテイルフリヲスル

瞬間ばかりが輝いて人生の文脈を灰にして往く
逆光に眼が眩み
塩の柱の夢想
甘すぎて



                《観測者の逸脱:2015年2月7日》













自由詩 観測者の逸脱 Copyright ただのみきや 2015-02-07 14:34:12
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