束の間
石田とわ

     しゅんしゅんしゅんと
     蓋をカタカタ鳴らしながら
     やかんがじれている
     それを尻目にガリガリと豆を挽く
     ペーパーフィルターの二辺を
     丁寧に折り曲げセットし
     慎重に、神妙に山を崩さぬように
     湯を注ぐ(無心の心持ちで)
     読みかけて置かれたままの本は
     骨ばった指先にしなやかに頁を捲られ
     その武骨な手が眩暈をひきおこす
     (あぁ、なんと狂おしい眩暈なのだ)
     コーヒーの砂山は砂時計のように
     ゆっくりとそして確実に
     崩れていく、崩れていく
     香ばしさを残しながら
     身を委ねるための儀式は終わった
     一夜をかけきっかり三杯分を啜るだろう
     あなたとわたしと、
     一冊の本のための
     束の間の夢をもとめて
     今、頁を捲る  
       
       





自由詩 束の間 Copyright 石田とわ 2015-02-03 22:35:33
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