夜の器
あるみ


ごはんできたよ と 声をかけても
テレビから離れられないでいる
夜の器に盛られた農場は テーブルの上で
少しずつ ふけていく


ブロッコリーの木に
間違えてよじ登った子豚は
降ろして と 私をじっと 見上げている
池の中に沈められたきのこは
溺れてしまうのは御免だと
ぶつぶつ文句を言いながら
岸のほうへたどり着こうとしている


そんな夜の器を見下ろしながら
私は深呼吸をして
思い留まろうと 抑え抑え
できるだけ安寧と静寂が 守られるように
保たれるように もう一度言う



ごはんだよ



しかしその声虚しく
農場は器ごと 更に音もなく 夜へ 闇へ
傾いていく



包丁で刻み続けられた時間は
私の渾身、慈悲、奉仕、愛
けれどもそれらは ビッグバンさながら
飽和した怒りと化し腹の底から
怒涛のごとく一気に 
駆け上って来るのだ



コラーーーーーーーーッ!!!!!
ごはんだって言ってるでしょーーーーーー!!??



自分でも驚くほど


大きなビッグバン



いただきます



目配せをしながら
私の機嫌を伺っているのが
傾いたご飯茶碗から 伝わってくる


そして
希望通りに子豚は
ブロッコリーから引きずり降ろされ
溺れそうになっていたきのこは
小さな口に 吸われていった


ミートボールも、ブロッコリーも、いっぱい食べてね
いっぱい食べると、大きくなれるんだよ
それから今日は
いっぱい食べた人には
デザートもあるんだよ〜



取り繕う 夜の傾き 夜の器
残されていたつややかなミニトマトが
楽しそうに遊泳する、微笑む



もう少し優しく言えなかったか
他に方法は無かったか
渾身と慈悲、奉仕、愛 そこには
少しの偽りも 手抜きも 怠惰も無かったか


やがて農場は もぬけの殻
夜の器は 果たした役目に安堵し
流し台に横たわる
そして その内側を
何の過程も無かったかのように
綺麗に洗われ
また新しい種を撒かれ 育み
夜へ 闇へ 
傾いていくのだ



















自由詩 夜の器 Copyright あるみ 2015-02-01 01:36:41
notebook Home 戻る