引き継ぎ
秀の秋

 定年退職後4年目のはじめのころ、ある短期集中ヘルプデスクの仕事をした。
 二十数名のメンバーのうち、ほとんどが若い人達で、年とったのは私一人。
 最初の一週間、ヘルプの知識や電話応対の研修があったのだが、
 若い人達が、ほんの一日二日で見違えるように上手になっていくのに驚嘆した。

 まだまだ仕事ができるはずだと内心自信はあったのだが、
 一週間経ってのテストで、自分がほとんど最下位近くにいるのを知った時、
 自分が老いてしまっていることを実感したのだった。
 若い人達を見ながら、そう若いということはこういうことなのだと、
 いまこうして、自分は仕事では使いものにはならないレベルの
 ただの老人の一人になってしまったのだと。

 幸い、若い人達は、私の過去を知らない。
 私を、仕事を覚えるのに四苦八苦している一人の老人として、
 労わってくれさえするのを感じると、自分の自尊心というものは崩壊したが、
 これが仕事にしろ何にしろ、老いた人から若い人への役割の受け渡し、
 あるいは人生の引き継ぎなのだと納得したのだった。



自由詩 引き継ぎ Copyright 秀の秋 2015-01-31 20:17:27
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