やまぶどう
竜門勇気


長い待ち時間の先に
何もない
暇つぶしに手にとった西遊記
辞書みたいな厚さも頼りない
どうしようか

やまぶどうはしゃべる
秋口の頃だったと思うけど
痛い痛いと言って喜んで
その先にズミの実があると茶化す

アテが外れてグミの渋い実をかじりながら
足元に野蒜の葉が萎れているのを見た
夜はそこまで来ていて
あけびの蔓が夕暮れにかかってぼやけている

呼ばれて部屋にはいると
不摂生をさんざん咎められる
僕が何をしたってんだ
今日まであんたに会わなかってだけだろ

あけびの蔓はしゃべる
こんな黄昏まで喜び勇んで遊ばなければ
甘い実に笑って黒い種を集めて
誇らしげに爪を見ていたのに

浅い川の源流に沢蟹の寝床をいくつも見つける
僕の体はなんて不完全でこぎたねえんだ
もう僕の痛いところは治らない
壊れたところは替えがない

ようやく解放されて部屋から出る
もう一度不摂生を挙げられて
こてんぱんにやられる
早く薬をくれ でなきゃ死刑台に送ってくれ

できれば
山で死にたい
誰も僕を覚えていないくらい遠いところで
誰も僕を見つけることのない深いところで
そうだ
でもそうもいかねえんだろ?
だから
生きてる時は邪魔しないでくれ
言いたいことだけ言わせてくれ
その上でさ
死んだ時だけ悼んでくれ
無理なら
ずっと無関心でいてくれ
いないものとして
此処に居さしてくれ


自由詩 やまぶどう Copyright 竜門勇気 2015-01-31 01:02:08
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