平和 その三
イナエ

平和3

手も足も頭も
引きちぎられた人々を
クロゼットや押し入れの壁に
塗り込めてつくられた平和
もはや 人間のうめきは
くぐもって外に漏れ出ない

人は闘争に美を見つける
  ローマのコロシウムで
  ニューヨークのスタジアムで
  東京の国技館で
  村の運動場で
  茶の間のテレビジョンで 

カウチに転がり思うのだ
  生きることは 戦うことだ
  太古から続いた事実
  戦って
  戦って今の繁栄を築いたのだと

  だが今
  戦うのはぼくに変わって
  指先から生まれた戦士
  肉体を持たない人間に
  打ち込まれていく弾
  あるいは槍
  素通りする傷みは快感

  焼けただれたうめきも
  壁の中の死者も見失って
  別世界に消えていく敗者
  傍らで弾けるぼくの咆哮

この平和な戦いに忍び寄る西の風
そこに漂う血の臭い
壁に塗り込めたうめきが浸みだし
カウチに転がるぼくを襲う
それでもぼくは身動きせず
平和のなかに浸るのだ


自由詩 平和 その三 Copyright イナエ 2015-01-28 21:34:19
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