えいえんタウン
竹森

二つの影は風となり、二人を囲んで舞い踊り、
肌の匂いや、軽やかなステップで
踏み拉かれた花々から立ち昇る香りと混ざり合って、僕は、
虹が崩れる音を、初めて聞きました。

生い茂る木々は一様に若く、
鏡の存在しない世界に、生の長さは
鍵の掛かった宝石箱の中にしまわれて、
いまだ僕らに美しい秘密のままでした。

青空を突き破り、楽園を目指して飛翔していく陽光は
遠ざかっていく程、小さく見えなくなっていくどころか、
更に大きく、際限なく膨れ上がっていく様でした。

      *

花畑の向こうにある街は、
自らの夢の産物を売って他人の夢の産物を買う人達で溢れ、
賑わいは途絶える事を知りません。
空には雲ひとつなく、夕暮れも夜もなく、
時の流れを否定する様に、いつまでも色の移らない、青空のまま、
青空のまま、でした。

街の住人達は皆、
呼吸をおこなうまでもなく、
幸福そのものとして暮らしていました。
純真な、とても純真な、
子供のまま、
大人のまま、
老人のまま。
彼らは、一人、
また一人と、
唐突に姿を消していきました。
それは、
彼らには語るまでもなく、
語る必要もなく、
語る口も、もう、
既になく。

いまや飽和した微笑みだけが、
その街を行く当てもなく、
いつまでも、いつまでも、
彷徨い続けているのでした。


      *


(ではここでひとつ、色彩のお話でもしましょうか?
(綿毛の色はえいえんに白色であるというお話を
(桜の花びらの色はえいえんに薄桃色であるというお話を
(夕暮れの色が書かせずにはいられなかった
(どこにでもいる詩人が書いた
(どこにでもある詩のお話を

「雨を知らないこの街は本当に街なのですか?」
/僕には分かりません。

「排水口がどこにもないこの街は本当に街なのですか?」
/僕には分かりません。


      *


「えいえんタウン」と僕が名付けた、ここは街ではありません。
花畑でもありません。
ましてや荒野でもありません。
僕には帰りの電車賃がありません。
そもそもこの辺り一帯には電車のレールが敷かれていません。
そうでした。
帰りの電車賃は一本のホット缶コーヒーとなって消えたのでした。
それが昨日の事でした。そのコーヒー缶が
いくら冷めても温かいような気がします。
もう中身は空っぽですが。

語れば語るほど崩れ(てしまうのです。
それでいて、いつまで経っても)落ちてはゆかないのです。
だからたとえば
「いつかぼくらが、すてきなおじいさんと、おばあさんに、なれますように」
というセンテンス。
それを僕には言わせないでください。
そう、
あの日僕らは妖精さえも炙り出せる程の透明な光に包まれていました。
恋人たちの密談に背を向けて、
聞こえないふりをしていたのはお互いさまで。
蝶々が花に留まる様に、
やつれていく頬/に/笑みが留まる、
そんな花畑の向こうでは、
名前を欲しがる沢山の子供たちが
巨大な鉄格子の中に押し込められて、泣き叫んでいて。
僕らはそればかりに見とれていたので、
街と呼べそうなものは、それ以外には、
何一つだって
見当たらなかったのでした。


自由詩 えいえんタウン Copyright 竹森 2015-01-25 18:36:55
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