眼人間
乾 加津也

リアリティはじっとしてはいられない女の子ね、持ち前の想像力で逃避も克服、溶ける魚(註1)の顔をして超現実、デバイスの仮想現実、拡張現実ソースたっぷりで入り乱れるの、あえて言葉で表すとして

人は個人空間(個室)を作りたがるもの、続柄でも掟や緊張がやまないから、個人が得たいと望むべき自由やちがった価値観を重んじるところの品性を、距離なくして保つことは難しい、結婚生活は個室と個室の隣りあわせ

わたしたち実は言葉に支配されていることに気づく未来(ころ)には、細やかな情感はもとより複雑な学術論文さえも以心伝心の方法が実用化、言葉は文明遺産だから最大級の賞賛を浴びて眼人間たちに陳列(ディスプレイ)されて

脳の退化が警鐘されるけれど杞憂でした、ある部位が飛躍的に発達し認知機能が向上したと伝播されたわ、ただし犯罪は俗悪化、こればかりはいつのときも、人は善悪対称の線引きに及び腰

眼人間にとって睫毛は男女かまわず強力なファッションアイテム、単色からグラデーションまで、様々な形態も豊富にそろうの、デリケートにこそ魅力があって、大雑把な性格では踵を返される、またいつか会いましょ

就寝前、眼人間は自己眼をくりぬいて舐めます、しゃぶしゃぶと昔食べた魚の目玉の味がします、その後ビーカーに浮かばせて、眼も休みます、夢も見ます

それなら手とは何でしょう、優秀な生活補助具に他ありません、でも一度、眼人間が手人間になろうとしたことがあって、手は崇高なセンサーばりの能動的恍惚感をもたらしたものの、あくまで突端性能、理性的には悔悛ばかりが積み上げられ、これ以上の進歩、発展はない模様

眼人間は眼が命、垂直体勢を好んで移動、棲家を離れるときは磁力の移動物体に身を委ねる、道(コース)と呼ばれる動線には大小様々なサークルが点在してこれがラウンドアバウト(実はこれも眼です)、トラッキング・コンセルジュ・サービスです

性的絶頂を効率よく発生させるための技術も広く浸透したから、眼人間の営みは同系色の眼と眼を重ねて互いの夢に迷い込む(この時ばかりは眼を付けて寝るの)、出られなくなると、昆虫のように関節を絡めたまま死んでしまう、平穏のうちに

それほど重要ではないから居住圏は狭い、海底生活、惑星移動は過去のリアリティの話、女の子は成長して世代交代、アンリアルの種はもう眼吹いている、根毛は大地を離れ、闇に開く花弁、腐敗の果実



風が吹いている
リピート・アフター・ミー
風を吹くものに風は吹く
The wind blows to those who to blow the wind.






(註1) アンドレ・ブルトン著 溶ける魚


自由詩 眼人間 Copyright 乾 加津也 2015-01-24 11:49:41
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