雪の瞳に映るのは
石瀬琳々
雪の瞳に映るのは
軽やかな窓
音もなく降る白い彼方の光
ひとつの塔に夜明けが訪れた
沈黙はただ安らぎであるかのように
いつか鳴る(それは予感めいた)鐘の響きを待っている
幾月も幾年も
雪の瞳に映るのは
冬枯れた薔薇
静かに眠る古い庭の蒼さ
やさしく触れた指を覚えている
それだけが夢のよすがであるかのように
めぐるあの春の音楽のような芽吹きを感じている
時を越えて
雪の瞳に映るのは
忘れられた本
誰もいない図書館の片隅
少女は振り向いて
何も言わずに微笑んだ
愛を知っている?その澄んだ目で語りかける
今はもう遠くなってしまった胸の炎に
雪の瞳に映るのは
空にのびた木立
もうすぐやって来るはずの影
少年は犬と戯れる
息もはずんで嬉しそうに
愛を知っている、そっと囁いて駆けていった
やがて白く埋めつくされるこの道の明日を
雪の瞳に映るのは
誰かの声
誰かの笑い声