少年のこと
求愛星団 高森学園

米原でつかまった少年を擁護するつもりはないが、気持ち、わからなくもない。私なんかはなにもやらないまま成人しちゃった。二十歳になるまでに彼流のやりかたで国家みたいなもののスケールとか実感とかを感得できたことには羨ましくさえも思う。彼は殺人を行ったわけではない。私個人としての悩みとして、この世に生きていて、リアリティがない。これに尽きたのが十代。二十代になって選挙に行っても働いても年金を払ってもなにかごっこ感が払拭できず、この国家に、世界に生きているということが体得できない。アイデンティティーという言葉が昔流行ったが、そこにこの列島というものを飲み込まなくてはどうにも生きている実感に欠ける。カラオケボックスでいくら国内共有のワードを熱唱しても掴みきれないなにかを感じていた。じゃあ総理大臣になれる器量が皆にあるのかと言えばそうではない。はっきりしないという悩み。それをはっきりさせるという可能性が、今回の少年の行動のようなもののなかにあることを予感しつつできなかった。それには家族には迷惑をかけちゃいけないという思いがあったからだろう。だから彼の行動には共感と賞賛の思いがこみ上げるのを禁じえない。世の中に起こる事件の多くにこのリアリティへの飢えからくる原因があると思う。その責任は知識を詰め込むことだけに専念している学校教育にもあると思う。知識を詰め込めば詰め込むほど、リアリティとは遠ざかっていくんだということを学校は教えない。教員自体が掴みきれていないリアリティを生徒と一緒に掴んでいこうとする教育体制に持っていかなきゃならない気がする。知識よりも、今をどれだけわからせるか。実感。彼が問題提起したものは、そんなに戯言でもないように思うが。誤解を恐れずに言えば、彼は正常な人間だと思う。



散文(批評随筆小説等) 少年のこと Copyright 求愛星団 高森学園 2015-01-19 18:35:04
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