暗い虹
イナエ
灯火管制の都会の底では
光を漁って深海魚が徘徊している
魚卵たちの夢は皆カーキ色をおびて
時折光る虹色の粒は
懐疑が延ばす触手に喰われ
光彩を失う
幼魚は皆同じ方向を見てかたまり
群れを離れる好奇心は
小鮫達の監視網に捉えられ
岩礁に追いやられる
岩礁では寸断された肉片が岩の棘に
垂れ下がりブルブル震えている
岩頭に捨てられた頭骨はひび割れて
空洞の眼窩を空に向け
雷雲に這う黒い銀色の
鮫の一群れを見つめている
硝煙に燻された虹の中を
ギラギラと降るガラスの粉は
岩盤を貫き皮膚に刺さる
ぼくの出す燐光を見つけた棘魚が
血管に潜り込み這い回り
夢の芽を食い散らしていく
一九四五年晩春
猜疑心に唆されたレンズを前に
人々は夢の断片すら見ることなく
思考を断った頭脳に
眠りを閉じ込めていた
二十一世紀を迎えたぼくの
指先が引き寄せる電情網に
砂漠を焼く炎が絡みついた夜
亡骸となった岩礁の
子宮に残した胞衣が流れ出し
蠕動してぼくに這い寄り
時雨空に醸し出した
虹の夢は赤黒く透けていく
蕊35号