眠りの天使
塔野夏子

その岸辺へとおりてゆくがいい
そこには優美な灰色の小舟と
一人の天使とが待つだろう

天使に導かれるまま
小舟に乗るがいい
舟底のしとねに横たわるがいい
天使の接吻が
双つの瞼を閉ざしてくれるだろう

天使の漕ぎだすまま
舟は岸をはなれゆくだろう
舟を泛べるその流れは
なつかしい歌の調べに似ているだろう

天使の漕ぎゆくまま
舟はゆるやかに流れに乗るだろう
ただゆだねているがいい
閉じた瞼にしずかな月と星との光を感じて

やがてその身と心との痛みたちが
少しずつほどけてゆくだろう
かわりに 忘れていた甘美な夢が
ゆっくりと沁みいってくるだろう

うっとりと 満たされてあるがいい――
時が来て 天使がふたたび その小舟を
すこし哀しい瞳で そっと岸につけるまで






自由詩 眠りの天使 Copyright 塔野夏子 2015-01-15 10:20:59
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