僕は妊娠する
ただのみきや

アルモノヲナイモノノヨウニ
ナイモノヲアルモノノヨウニ
カタルモノニカタラセズ
カタラナイモノニカタラセヨ

時の澱み
虚無の沼地
透明な不発弾

スイカばかり食べていた記憶の夏
背丈ほども茂った叢へ分け入った
人の眼だけが巡らない
ざわめく四十万の悦楽へ
水面に跳ねて照り返る黄金に
瞳を殺められた蒼白の恋死体
やわらかな唇を精いっぱいかたくして
発語する熟れた毒は痺れて甘く
磨き抜かれた甲虫たちが食み
食まれ 隠花したまま
僕は妊娠する吉凶は占わない

これが嘘なら真はいつも
限りなく研がれた月
逝く 終の吸う息の音
零を掛けられながら
解の手前一線で硬直した数々の数
いま しつつある 消滅
揺らぎはじめた名を影のように曳いて
絶えず それが 
アル という モノ コト

僕は妊娠する殺意のまま恋をする
虚構の銀河は脳裏で破水する



          《僕は妊娠する:2015年1月10日》






自由詩 僕は妊娠する Copyright ただのみきや 2015-01-14 22:29:56
notebook Home 戻る