水たまりに沈めた手紙
竹森

差出人の欄には
「海」としか書かれていなかった
指紋の上に指紋を重ねて
いつか返事を書くものだろうと
まだ躊躇わずに口づけ出来た水たまりの
波紋の上に波紋が重なり
触れてはいけない気がしてもなお


太陽の昇る方から風が吹いて
沈む方へと去っていったの
私の背丈では届かないところで緑が揺れていると
届かないのに背伸びをしてしまうのはどうして


海に湖にダムに水たまりに水槽に
魚を沈めてみたけど足りなくて
それはまるで迷路でしたか ドミノでしたか
彼に彼女にあの日の公園の広葉樹にさえ真剣な顔で
問いただしてみたけど足りなくて
シーソーにブランコにジャングルジムに
三つ編みを絡めてみても
きっと返事を書かなかったせいだ
海からの手紙は再びは届かなくてなのに


さようなら
こんにちは
ありがとう
ごめんなさい


あなたを呼ぶようにして
呟いてしまうのはどうして




花占いに寄り添うように季節は流れて
だから私は冬が嫌いで
指先ですか
ビブラートですか
すっくと伸びた君の背筋が伸ばした影を
包んでいたのは きっと
いつか誰かが水たまりに沈めた
うすいうすい
オブラートでした


自由詩 水たまりに沈めた手紙 Copyright 竹森 2015-01-13 00:46:09
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