猫人のひとりごと  #空想の街 氷涼祭
北大路京介


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cielo(チェロ)、俺の名。
空という意味。
旅人で猫人。
正確には猫人のクォーター。
四分の一は猫人の血が入っている。
35歳で独身だがモテないわけではない。
結婚のチャンスはこれまで何度もあった。

死者が帰ってくる氷涼祭の時期は、毎年旅に出ている。
逃げているのかもしれない。
ステラやルナが帰ってくるからだ。
ステラやルナというのは、昔の恋人だ。
どちらも愛してた。
いや、いまでも愛してる。

ステラとルナを同時に愛してたわけじゃない。
いわゆるフタマタというやつではない。
ステラが亡くなったあとにルナと恋に落ちたわけだ。
そしてルナも亡くなった。
3人で会うわけにはいくまい。
どちらかと会うなら、どちらとも会わない選択をする。

氷涼祭の時期、彼女らは本当に帰ってきているのだろうか。
もし彼女たちが俺を探していたらと思うと胸が痛い。
もしかしたら、あいつら、あの世で知り合って、俺のことを肴に酒でも飲んでるんじゃないか。
だとしたら、3人でも会えるのだが・・・


死者は歳をとらないと思うが、ステラは俺より10歳上。
ルナは10歳下。
ふたりには20歳も差がある。
ジェネレーションギャップもあろう。
そういえばステラから教わったことを偉そうにルナに教えていた。
ふたりが出会ってないことを祈る。

ステラとルナ、ふたりは俺を探しに帰ってきているだろうか?
探すとしたら Gion Parkに行っているかもしれない。
Gion Parkは、北区ジェスルにある俺のお気に入りのBARだ。
ステラともルナともよく飲みに行った。

そうだ。Gion Parkを紹介してくれたのはステラだった。
ビールが苦手な俺に「君にも飲めそうなビールを教えてあげる」とステラに連れて来てもらったのだった。
フルーティーなビールを御馳走になった。
俺が飲める数少ないビール。

Gion Parkはブルーソックス公認のBARで、野球好きな俺はすぐに気に入った。
しかし、いまだに試合中継がある時間には立ち寄ったことがない。
Gion Parkに来るときはいつも試合が終わった時間かシーズンオフばかりなのだ。

ジェスル近辺で仕事やイベントがあると帰りにGion Parkへ行く。
そこでステラと飲んで、自宅のあるケントルムへ一緒に帰った。
たまたまステラもケントルムに住んでいたため一緒に帰ることで仲良くなった・・・のだったかもしれない。

ステラが亡くなって4年ほど経った頃、ルナと知り合った。
ルナは音楽が好きで、MisterPepperのファンだった。
MisterPepperはジェスル出身の人気シンガーだ。
俺もミスペパのファンだったから出会ってすぐに・・・ いや、略奪愛だったかな。

今思うとステラとルナは似ていた。
ふたりとも犬っぽかったし眼鏡かけてたし。
輪郭も似てたかな。
気が強い女だった。
いや、ステラは料理しなかったし、ルナは料理好きだったし似てない点もいっぱいある。

ステラとルナは、俺が猫人であることを受け入れてくれた。
100%人間でもない猫人でもない中途半端な俺を差別せずに付き合ってくれた。
世間体など気にすることもあっただろう。
俺との結婚をステラの親もルナの親も反対するに決まっていると思っていた。

相手が猫人であろうともどんな親でも認めるざるをえないような男になるまでは結婚できないと思っていた。
そんなわけで、ステラにもルナにもウェディングドレスを着せてやれなかった。
それは申し訳なかった。

あの世でも出会いとかあったりするのだろうか?
いまでも亡くなったあの頃のまま、彼女たちは俺を愛していてくれているのだろうか?
その答えを知るのが怖くて、俺は逃げているのかもしれない。

テレビでは白鴉のワタリのニュースが。
街中が風船を付け出す前に俺はこの街を出る。
白鴉がまた別の場所へ渡る頃、俺はまた街に帰ってくる。
今年は涙雨に濡れぬように傘を持って行こう。

 #空想の街 #猫人


散文(批評随筆小説等) 猫人のひとりごと  #空想の街 氷涼祭 Copyright 北大路京介 2015-01-06 20:59:22
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