月火水木金土日
香椎焚
おのおのに、週末
なぁんだ
なぁんだそうだったのか
息をすることが困難な夜には
知らない地の夢を見るんだ
玄武岩質の平原、つきあたりの揺るがない闇
そんなものが僕らの孤独の限界だったんだ
なぁんだ
なぁんだそうだったのか
香ばしいフィナンシェを焼いている隣家の新妻は
火曜劇場で誰より早く真犯人を当てるんだ
さようなら焔立つ敵と味方の境界で
アイラブユーって言ってくれよ
なぁんだ
なぁんだそうだったのか
照る照る坊主は雨が好きだったのか
虹のふもとが瓦解してゆく夕暮れに
つたと流れる涙のごとき一滴を
主張する手がなかった、それだけなんだ
なぁんだ
なぁんだそうだったのか
艶めかしくうねる木目をどこまでも辿って
新しい方程式を編み出そうとしていた
黙ったら押し殺される
黒板と白墨のシンコペーションに
なぁんだ
なぁんだそうだったのか
人のリズムを誰かに伝えたかったのか
無宗教の少女が鐘を鳴らした
隣町の少年が駄菓子屋の前でそれを聞いて
十円玉ひとつ盗んだ、どうしようもない事情で
なんて
なんて美しく小さな世界に繋ぎとめられていただろうーー
そして週末が訪れる、おのおのに
僕の妄想にも安らぎが訪れる
おのおのに、週末
片っ方の靴を隠されたまま
それも忘れてしまって