海と陸
オダ カズヒコ




目を瞑っていると
死んでいるように見える老人
狂おしく時が抜け落ちる感覚に
急いで電話を握りしめた

あなたのいる世界と
いない世界
ふたつ世界の狭間で
軋む心

初夏の琵琶湖の疏水は
さらさらと便箋にしきつめられた手紙のようで
流れにのっていく青葉と
波間に抵抗する古木の枝とが
言葉と時間の
深い関係を結んでいる

鴨川から見える山が
好きだった

意志の実現として存在するものは
人間だけだ

ところでぼくらは
少し前に起こった大きな地震について
語り合っている

まるで”ささやかな”一つの恋が
二人の人生をさっぱりと変えてしまったように
文明をもまた変えてしまう可能性について
語り合っている

”瓦礫”の中にずっしりと埋まっていたものは
人の顔や腕や手足のほかに
たくさん心や汗だったこと

あるいはもっと
”別れ”の中に見つけた時間の
大きな失望について

出会わなきゃよかった?
起こらなきゃ
うまくやり過ごせた?

ぼくらはそんな人間の
卑しい考え方が
一番嫌いだ

昔から人の町は海のようだと思っていた
雑多な生き物たちがいて
とても豊かだ
だから一度海を捨てて出て行った者たちが
また戻ってくる理由も
よくわかるのだ
陸の上の生活は
とても不便だ


自由詩 海と陸 Copyright オダ カズヒコ 2015-01-01 23:36:57
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