喪服の街
オダ カズヒコ



会社の上司が死んだので
葬式に顔を出した

式が済んだあと
住宅地の真ん中にある屋敷で
同僚と飲んだ

「世の中 何が起こるかわかりませんね」と
誰かが言ったので
あからさまになってはいけないことが
公になったような気がして
みんなが紙コップを握りしめ
思い思いに口に注ぎ込む

指にかけた共鳴用の弦が
びんと強く
弾かれたような気がして
「世界」というちっぽけな水溜りに
頼りなくぽつんと一滴
空気の粒が弾けたような気がした

ビルの重なりに
重たげな影の街のへりを歩く
喪服の僕らは
輝かしいはずの時代の扉を
またひとつ閉じこめたような気がした

ちっとも
綺麗になっていかない
思い出だけを残して
このドアノブの向こう側を回せば
「また明日」と
軽く手をかざし
別れていく交差点がある

考えてもみやしない出来事に
困惑の顔を浮かべるよりも
ありきたりの日常に
縋りつくお互いの顔に
困惑の顔を見つめてしまう

この僕らの街はもっと色んなものを
たくさん見ていたり
ずっと上手にちゃんと隠していたり
するというのに


自由詩 喪服の街 Copyright オダ カズヒコ 2014-12-30 17:43:42
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