かける
木屋 亞万
あたらしい自分になるたびに
古い自分は小さく丸めてゴミ箱へ捨ててきた
長年連れ添う眼鏡は鼻に重たくて
一日限りのコンタクトレンズの方が私のそばにいてくれる
世界をくっきりと映し出してくれる
鱗を目に張り付けて街を泳ぐ魚になろう
マーメイドは歌わない
魔女に利用されないように
過去なんてろくなものじゃない
新しい日が来るたびに記憶は片付けられていく
本当に必要な写真がアルバムにどれだけあっただろう
写真に添えられた言葉はほとんど必要なかったね
切り取られた世界の外側にあったものは
固定されたぎこちない表情がもっていたはずの動きは
ほとんど思い出すこともできなくなってしまったね
捨てられたものは誰にも思い出してもらえない
過ぎ去った過去はいつの間にか色褪せて朽ちていく
今ほどつかみどころのないものはないけれど
それでも手を振り回し足を踏み鳴らして
強く凛々しく進まなければならない
次の瞬間には何の意味もないものに成り下がったとしても
今この一瞬に輝いて弾け飛ぶことに命を懸けろ
他に命を張るべき場所は一つもありはしないのだから