かける
木屋 亞万

あたらしい自分になるたびに
古い自分は小さく丸めてゴミ箱へ捨ててきた

長年連れ添う眼鏡は鼻に重たくて
一日限りのコンタクトレンズの方が私のそばにいてくれる
世界をくっきりと映し出してくれる
鱗を目に張り付けて街を泳ぐ魚になろう
マーメイドは歌わない
魔女に利用されないように

過去なんてろくなものじゃない
新しい日が来るたびに記憶は片付けられていく

本当に必要な写真がアルバムにどれだけあっただろう
写真に添えられた言葉はほとんど必要なかったね
切り取られた世界の外側にあったものは
固定されたぎこちない表情がもっていたはずの動きは
ほとんど思い出すこともできなくなってしまったね

捨てられたものは誰にも思い出してもらえない
過ぎ去った過去はいつの間にか色褪せて朽ちていく

今ほどつかみどころのないものはないけれど
それでも手を振り回し足を踏み鳴らして
強く凛々しく進まなければならない
次の瞬間には何の意味もないものに成り下がったとしても
今この一瞬に輝いて弾け飛ぶことに命を懸けろ
他に命を張るべき場所は一つもありはしないのだから


自由詩 かける Copyright 木屋 亞万 2014-12-30 12:53:44
notebook Home