彫る人
葉leaf




あなたは毎日同じスーツに心を流し込みながら
あなたの心はスーツやシャツが仕事で汚れるように
社会の密林を探索することで研がれていった
いや、心だけでなく体も、研がれるだけでなく彫られていった
あなたの心身をこの組織が求める美にまで高めたのは
あなた自身の鑿であり鑿捌きだ
かつてとても美しい大きな絵があった
描いたのはあなた だがその大きさと美しさが恥ずかしくて
結局あなたはその絵を人生の地図とはしなかった
実用的でない忘却されるだけの絵であるがゆえに
もはや取り戻しようのない真実で燃えている
そんな絵の上にまっすぐ立ったあなたは
毎日の仕事の成功や失敗に合わせて
自ら鑿を取り自らの心身を彫っていく
あなたの手の力を導いたのは他人の醜さであり
失敗への反省であり 成功への分析である
自己への嫌悪や他者への嫌悪が鑿の力を生み出した
全て人格を正しく導くのは嫌悪でしかありえない
そうして30年間彫りあげられたあなたは
もはやこんな組織には不釣り合いな贅沢品
飾り物以上の深い風韻を備えた一個の溢れかえる彫刻
あなたが席に座るだけであなたから溢れてくる完成された美の呼吸に
つい最近ようやく自己を彫り始めた私は
私の粗さといびつさにやすりをかけられるようでありながら
一方で同じ鑿捌きを持つ者として同じ呼吸をする
私とあなたは鑿捌きの癖、社会への感受性が同一であり
私もまたいつかこの組織を超えていきたい
そして私は未だ忘れていない大きな絵を
若い頃描いたまままだ壁中に貼ってある大きな絵を
少しずつ社会の色彩に流し込んでゆきたいのだ
あなたと同じ呼吸で自己を彫り上げるだけでなく
青春の力動や情熱で絵を描き続けていたい
社会の一端をこの手に掴み取るまで


自由詩 彫る人 Copyright 葉leaf 2014-12-29 23:58:11
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