ペンとスケッチ
ただのみきや

ボールペンよくあるタイプの
百円程度で売られている
そうノック式
透明で
インクの残りが見える
正々堂々それがいい
そいつが相棒だ


だが考えてもご覧
この何処までも機能に徹した筆記用具
誰もが文字を書く時代に生まれた量産型
いくつもの異なる素材が組み合わされ
指で支える部分はギザギザやラバーで滑りにくく
ポケットやノートに固定するためのクリップ
インクの残量もわかる透明さ
先端の金属球体の小ささ滑らかさ
まさに「書き残したい」そんな人類の
歴史と技術の集大成
それなしには存在しない
たとえ一億円あってもパッと生み出せるものじゃないよ


無個性で安っぽいなんて思い込みさ
生まれが同じでも
誰の手に握られるかで全く別物
サラリーマンの胸ポケットで手帳と結ばれる奴
学生のペンケースでゴロゴロしては
時々耳垢そうじ爪垢そうじ
現場のオッチャンの作業服に住み込んでいる
埃まみれの働き者
はたまたイカレ野郎の手に握られて
通りすがりの女の頬に突き刺さるそんな不幸な奴
結局は使う者次第
あるべき使い方をされる時
持って生まれた全ての特性が生かされるって訳だ
まるで人間みたいじゃないか


それで描くって訳
スケッチするのさ
鉛筆より相性がいいんだ
景色とか人とか心の中とかね
観たままってより心に映ったまま
湧き上るまま
描きつける
ほとんどは何を描いたか忘れてしまう
そして時々
その何だか解らないものを
解らないままで描き直して
仕上げたそいつを眺めまわしては
首を傾げたり悦に浸ったり
いっぱしの芸術家気取りでね


最近の一枚
これまた不可解でね
ひとりの男 大人のようだけど
そいつが水たまりに突っ伏して
顏を浸して溺れているのさ

「深いよう 深いよう……
  苦しいよう 辛いよう…… 」  

そんなことを言ってね
周りに人が集まって
がやがや話しているんだけど
おおまか三つの意見に分かれていてね
ひとつは 「誰か教えてやりなよ 顏を上げるだけで助かるって」
もうひとつは 「きっとあの人にしか解らない深さなのよ 
 だから優しく言ってあげましょう 『ええ 本当に深いわ』って」
もうひとつは 「ただの寂しがり屋だよ 放っておきな」
すると突然筋肉の盛り上がった改造車が素早く走って来て
「駄目!駄目!駄目!駄目!みんな駄目! 」
連中を全員跳ね飛ばし
ハンドルを自在に捌いて姿を消したんだ
突っ伏していた男だけが慌てて立って逃げ出したのさ
まったくねえ
やがて男と改造車はめでたく結ばれたけど
そんなにわか仕立ての蜜月が続く訳もないから
男は再び

「深いよう 深いよう……
  苦しいよう…… 」


何が不可解かって
なんでこんなものをスケッチしたかってこと
いろいろ考えてみたけど結局思い出せなかった
もしかしてあの男に恋でもしていたのかしら
それでいつもペン先を舌で濡らして ああ……
スケッチしてやろうとこっそり待ち伏せて……

そんな訳ないだろ!
美しさや儚さ
高邁な理想
時には滑稽さ
愚かさだって
スケッチしたくなるものさ
どうにも割り切れないことだから
描いてみたくなるのかねえ


カチャカチャペンを押し続けて
悪い癖なんだ
神経質?
そうでもないさ
ラテンのリズム
真冬に引かれる素早い斜線は
脳内トロピカルパノラマライン
闇の色音の囁きで
切り出す輪郭の力加減
見えない手に握られて

えっ『おまえも其処らにゴロゴロしている安物だろ? 』 

違いない おっしゃる通り 
そう 違いなんてないのさ
決定的に違うところなんて
この夜が明けるまで解りゃしないよ




               《ペンとスケッチ:2014年12月21日》









自由詩 ペンとスケッチ Copyright ただのみきや 2014-12-27 20:12:10
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