十二月の疼痛
そらの珊瑚

等間隔で並んだハードル
一定のリズムで走り抜けながら
傍から見れば軽々と
それを飛び越えていく
到底私には太刀打ちできないと思わせる
人生が凝縮されたような
すばらしく難しい競技
もちろんそこに勝ち負けはあるけれど
どうやらそれだけが目的じゃないらしい
Happy Christmas
冬の下校時
すでに陽はなく
白い消石灰パウダーで出来たラインは
夕暮れに沈み
彼は
インターバルを繰り返す
ただ黒いだけの人間のシルエットだった

私は十五歳だった
ただ漠然とした未来だけが
グラウンドのその先にあって
何も持っていないという
自覚だけを持っていた季節
私は影さえない小さな石ころだった
金網の中のプールの
濁った水の中に
満月はおごそかに落ち
やがて来る朝のための供物になる

彼の名前は知らなかった
知りたいとも思わなかった
何かを持ってしまうことに
ひどく怯えていて
遠くからあっかんべえをした

あれが恋だったのかどうか
今もわからないけれど
長い時間
あの風景が
心に棲みついていた

おそらく私は
誰にも悟られないように泣いていた
生理は始まっていて
確実に女ではあったけど
血を流す痛みはなく
虫歯の痛み
もしくは
誰かを傷つけたり傷つけられたりした
痛みの方が切実だった

冬が
やまいだれを被ると
いともたやすく
私は
あの地点に戻ってしまう
時間が企んだ喪失は
うずくような痛みを伴って
なつかしくて
まだ何も持ってはいないし
知ってない
ついそんな気になって
顔を歪ませながら
少し微笑んでみせる







自由詩 十二月の疼痛 Copyright そらの珊瑚 2014-12-24 14:53:56
notebook Home