ダヒテと世界
嘉村奈緒
ダヒテ。
ダヒテの発音は砂のようで
ダヒテの腕はいつもきみどりいろな気がする。
僕の魂は重みにつぶされたりはしない
青梅線を走る送電線に巻き込まれたりしない
そうなったら
ダヒテ
の、きみどりいろを思い出す よ
ダ ヒ テ
僕は毎夜見る夢で四つんばいになっている
自分が走ってきた景色はもうないんだ
( 魂 は 浮 か ぶ の ?
土 に な る の ? )
僕が死んでも、色とりどりの食べものが、並ぶだけなのだから
送電線に巻き込まれたら、助けにきてよ、ダヒテ。
本当の海を知らない
本当の森を知らない
僕の話している言葉は何を育てているの?
(・・・そんな、きみどりいろで、じゃりじゃりした、はつおん、で
図書館に行って、片っ端から文字を見たよ
でも帰ろうと手袋をはめたらほとんど消えていた
真っ白な空気が息を止めようとするんだ
ひたすら白い
のだよ
白い、白い
濃縮された、無知だ
よ
世界って 何回言ったかな
僕は世界に馴染んでいるだろうか
あのね、ダヒテ、こんな言葉を聞いたんだ
「ひとはひとりだ」
繋がりが
見えたらいいのにって思う
困ったり
困らなかったりするだろうけど
それが
蝶々結びだったら
少し、楽しいよ
きっと
少し。
ダヒテ。
観覧車が見えるよ
あれに乗ったのは何歳だったかな
物が小さくなっていくのは
とても怖い
自分がこのまま
しゅるりと消えていくんじゃないかって
思うよ
静かだね
静かな世界
静かなダヒテ。
君をうそだって言うのは
なんて
とてもたやすい