木屋 亞万

タコの足を遠心分離器にかけてプラスチックにしたような洗濯物を干す器具に色とりどりのタオルを干して強風にくるくる回る様をみていたい
乾ききった空気の中で凍えたタオルが真っ直ぐな姿でパリパリになっていく

エンジンがかかった車のテールランプの下にある横向きの煙突からぼろぼろの煙が上がる
密室で濃縮されれば人を殺せる毒ガスを空中に薄く撒き散らしながら街行く幸せな人がみな少し不健康になればいいと願う

寒い中開け放たれたオープンカーの運転席の扉には窓を沈めて収納するスペースがあり
その最上部のゴムカバーに乗せた火をつけたばかりのタバコが糸煙を昇天させる

恋に現をぬかし視野の狭くなったものにだけ綺麗に見える電飾を遠目に見やりながら走る国道では
平日祝日関係なしにトラックがいくつもの荷物を載せて走る
その巨大な運搬車の隙間を墨をたっぷり吸った筆のような黒髪が二人乗りのバイクとして縫い取るように駆け抜ける

線路の上を定刻通りに通過するだけの人生を馬鹿にする人たちがいるけれど
鉄の体と管理されたダイヤグラムがなければ線路の上を走ることすら許されないことを知らないのだろう
生身の人間が突然線路に立ち入ればそれはただ運行を妨げる障害物

強火のフライパンの上で表面だけが焦がされていく厚切りの赤身肉が
敷かれた油に肉汁を溶かしながらポリペプチド鎖をほどいて衝突と結合を繰り返し凝固していく
加熱されていくタンパク質は均衡を保つ鎖を解いて固くかたく愛の塊になるので噛みちぎって消化しよう

服は着たままでいい
首筋やふくらはぎの曲線を包む冬物の繊維が皮膚の柔さを引き立てるから
やさしく触れば傷むことのない花弁であり更新を続けるとろ火のような若さ

愛しさはいつも夢の中に
うつくしさはいつも頭の中に


自由詩 Copyright 木屋 亞万 2014-12-23 13:52:58
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