さざなみ
もっぷ

まぼろしをみているのではない
みずうみが現れて問うのだ
「なぜ来たの」
「だってわたしのなみだがみえませんか」
躊躇わずに応えていた
確かに泣いていた
さびしさと
寒さに

いくども住所を変えていまは
東京の下町にある北東角部屋に居る
ふゆにばかり風が好んで窓を叩く
ふゆ以外がいったいどうであるのかを
いまこの瞬間に思い出すことができない
母はいない
父を度重なるがんの転移でついに失った
親類も 遠い縁者すら知らずに
独りを知り尽くしたつもりでいる
わたしなら
喩えではなく真実
夢を食べて生きている
いつまで経っても蒼いままの三十一文字
そしてただ待っているのだ
父が死んだ一季 だけを
しばしば変人と呼ばれながら
相応しくあろうと工夫をしながら
まぼろしをみているのではない
 なぜ来たの
 みずうみは問う
 母のごと
 わたしのなみだ
 抱いてください
三文の短歌をせいいっぱいに並べながら
この 部屋もずたずたにしながら
北西風を待ちながらわたしはすでに
「狂」人であり
独りを知り尽くして
生きている理由など掴めないままの

またふゆだ



自由詩 さざなみ Copyright もっぷ 2014-12-23 01:50:22
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