頭蓋の空洞は囁く
ホロウ・シカエルボク
盲目の蛇が一番古い脳の皺から這い出るような一日の終りの時間に、意味を成さない膿の中から拾い上げた唯一の希望は真っ暗な色をしていた、眠る前から夢を見ている、本当みたいな夢を、まぶたは生命を迷っているのだ、だから誤作動が始まる、一日の終りの時間に…昨日の朝、マグナムでてめえの頭を吹っ飛ばして死んだどこぞの国の美人弁護士とやらの死体写真を見た、飛び出した目玉の白は雪雲のようにくすんでいて…それを舐めたらどんな味がするだろうかと思った、死の白に変わった眼球を舐めたらさ―舌の先には涎のように死がぶら下がるのだろうか?動機は不明だと書いてあった、たったそれだけの情報だった、死体だけがさらされていた、脳味噌のぶっ飛び方にマグナムと書いてあった、マグナムは凄まじいものだ、話には聞いていたがそれが初めてどういうことなのか理解出来た気がする―だからといって俺がそれを彼女のように利用するかと言えばそいつはまた別の話だ―俺なら絶対に他人の頭をぶっ飛ばすのに使うだろうな、不意打ちで、後ろからさ…それからパソコンを閉じて散歩に出たんだ、やることはいろいろあってさ…金にならない時間のほうがずっと忙しいんだ、そしてずっと有意義でもある、愚かな連中は意義や意味を怖れる、なぜだか判るか?自分たちがそこから程遠いことを知っているからだ…手の届かないものが見えることが怖ろしいのさ、だからハナから追いかけないことを選ぶ、人生を怖れることから彼らの人生は始まる、そうしてそこから抜け出そうとするやつらの脚にしがみついて同じ愚かさを共有させようというわけさ―そんな記憶が君にもないか?スタンプのような生活、スタンプのような人生観…あそこの誰かが言っていたのと同じことをこちらの誰かも喋っている、しかもおかしなことに台詞すらほとんど変わりはしない…きっと彼らの脳味噌の中にはそういう台詞が掘り込まれたスタンプが赤々としたインクで押されているのさ―俺がそれを教えてあげたら彼らはそれをおかしいと思うだろうか?いや、俺のことをおかしいと思うだけさ、俺は何度もそうしたことを見てきたよ…彼らはまるで生きながら自縛霊のようだ、決められたエリアから逃れることは永久にない…マグナムがあれば彼らを少し賢くしてあげることは出来るかもしれないけれど、そんなことをしたらあの世は浄化出来ない白痴でいっぱいになっちまうだろうな、とうぶん俺は引鉄に手をかける気はない、あちらこちらに気を使える人間なもんでね…やあ、日付が変わった瞬間に狂ったように冷え始めた、冷気と凶器が体温計の中の水銀のようにどろどろと動いている…脳味噌が吹っ飛ぶ瞬間、そいつを生きながら知ることは出来るだろうか?脳味噌が吹っ飛ぶ瞬間さ、物理的にでも感覚的にでもいい、人生が色を変えるようなエキサイティングな瞬間、なんて陳腐な言葉で置き換えたって構わない、俺の脳味噌を吹っ飛ばせよ、俺の脳味噌を吹っ飛ばしてくれよ、命や、死や、富や、名声や、喜劇や悲劇を望んでいるわけじゃない、そのなにもかもがごちゃ混ぜになったうんざりするような色味のパレットの上で、俺の脳味噌をぶっ飛ばしてくれ、俺はずっとそうして人生を繋いできた、これからもずっとそうさ…強烈な一撃、強烈なワン・ショットどこからやってきても構わない、後ろからの不意打ちだって…!常に、常に、常に、変化のありかたについて考えることさ、出来ればこの俺の細胞たちには自己申告制で死んで生まれてもらいたい、そんな風に考えることはないかい、そんな風に知りたいと考えることは?俺が知りたいのは絶対的なテーゼじゃない、絶対的な感覚なんだ、死体の写真を漁り、欠損の概念を漁り、うんざりするような感情の羅列を漁り…きれいなものに涙することだってあるが、それはさまざまな穢れの中に顔を突っ込んできたからに他ならない、判りやすいフレーズに甘えたりなんかしない、世界の欠損に甘えたりなんかしない、自身の欠損に甘えたりなんかしない、争いは無限にある、ふっ飛ばすべき頭は無限にある、もしかしたらいつも、いつでも俺はそいつを吹っ飛ばしているのかもしれない、人生に理由を、意味を求める以上…求める以上形を成すことはない、昨日の真実は今日の戯言に過ぎない、垣間見た瞬間にフリーズしないことさ、すぐに次に来るものを目に留めることなんだ、永遠普遍の真実などない、死ぬまで生きているつもりなら決してそんなものを求めてはいけない、真実はいつだって強烈な影だ、日差しが傾けば生まれるところも変わるのだ―やあ!こんなクソみたいに寒い夜に俺のデスクには一匹の羽虫がご来訪あそばした!手のひらでそいつをぺしゃんこにしてもんどりうつ寝床に潜り込む…いつだって俺は寝つきが悪いんだ……。