街の風景
ヒヤシンス
ガラスの葉っぱに滴る雨水が甘い匂いを放っている。
この街の横顔が、夜明け前の薄青い静寂に包まれている。
店を閉めたジャズバーの管理人が、暗い色のコートを着込み、
メインストリートの奥へと消えてゆく。
昨夜の雨がこの煤けた街をほんの少しだけ輝かせている。
看板の電飾が切れた寂れたホテルから、互いが互いの存在価値を
見出そうとしているかのようなアベックがチェックアウトする。
純粋な彼や彼女が未だ夢の中をさまよっているうちに。
太陽は未だ昇らず、青い空の濃度は増してゆく。
道端に座り込んだダンボールの住人は、今日という日に
想定外の金が手に入る事をまだ知らない。
地元の功労者を人々はヤクザと呼ぶのだが。
朝はその濃度と透明度で明けてゆく。
目の下にクマをつくった派手なガウンの女達は憂いに満ちている。
脇道でタクシーを拾うと、おもむろに乗り込んで馴染みの運転手に目配せをする。
静かなエンジン音をたててタクシーが脇道からメインストリートへ去ってゆく。
日が昇る。
この街の横顔を今日一番の美しさで精一杯照らす。
ストリートに人や車が増えてくる。
一つの魅力的な時間が終わった。
夜勤明けのホテルを出るとそこは今日が始まっていた。
人もまばらな商店街を抜けて明け方の中華街へ向かう。
そこにはまだ魅力的な時間が流れている。
その後は海を見に行く。癒しのサイクル。眠くはないのだ。
貨物船が往き交う港でおもむろに煙草に火を付ける。
手にした缶コーヒーが心と体を温める。
これが私のブルー・イン・グリーンだ。
今、世界は私を中心に回っている。