広島太郎ホーム留守
イオン

夕暮れ迫る広島の路面電車で
ホームレスの有名人、広島太郎に遭遇した
少し混みあう車内に乗り込んで来た彼は
青いビニールシートをマントに羽織り
汚れたヌイグルミを首から十数個ぶら下げて
腕時計を何個も着けた腕には黒い垢が浮いており
変な異臭を放っていた

広島太郎は自転車に乗るホームレスのはずで
雨でもないのに路面電車に乗るのは変だ
それに彼は市民に、愛されていると聞いていたが
目の前の現実は、誰もが彼を無視している
混みあう車内でその格好は迷惑だ
だからか、愛されているとは感じなかった

広島太郎は路面電車に乗り込んで
世間を気にしない人を、世間は気にしないと
訴えたいのだろうか
裸で街を歩いたら捕まるが、汚れて臭う服でも
着込んでいれば捕まらないという矛盾を
訴えたいのだろうか

広島太郎は乗車三つ目の八丁堀手前で
運転席側に動き出した
八丁堀は彼のホームグランドだと聞いていた
自動ドアのように誰もが綺麗に道を開けていく
ホームグランド着いた瞬間から
彼は愛されると見るべきなのか

いや、広島太郎は自転車に乗り
世間と距離感を持ったホームレスだから
愛されているのではないのか
だから、自転車のある八丁堀が彼のホームで
今見たのは、ホーム留守中の広島太郎
ホームレスへの出勤途中なのかもしれない


自由詩 広島太郎ホーム留守 Copyright イオン 2014-12-14 16:11:46
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