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竹森
バイトも週二日で、この春休み、お前は勉強もせずに何をやっているのかって?あのね、笑わないでくれよ、僕はね、詩を、詩を書いているんだ。なんで僕は詩なんか書いてるのかな、大学も三年生になるのだから、詩なんていう若気の至りからは、もうそろそろ抜け出すべきだとは常々思っているよ。でも書いちゃうんだよな。なんというか、ひま、なんじゃなくて、ひまを得たい、という感覚の方に近いな、詩作っていうのは、僕にとっては、適度に疲労できるジョギング、いや、散歩、の様なものなんだ。なんというかね、言い訳になるんだよ、詩作は、僕にとって、頑張らなかったり、やるべき事をやらなかったりする。え、見せて?いやいや、絶対に見せたくないね。何故って、そりゃあ、君に見せるために書いている訳ではないからさ。君に見せるという前提のもとに書いたとしたら、僕は一編の詩も書き上げる事が出来ないだろうし、詩は虚しい作業であるどころか、そこにさらに苦行という要素まで付加されてしまうだろう。
でもね、自分の書いた詩を見せるより何より一番困るのは僕に影響されて君も詩作を始めてしまうって事。それだけは絶対に避けたい。他人の詩を読むというのは僕にとっては耐え難い苦痛なんだ。というより他人が詩を書いているという事実そのものからしてもう苦痛以外の何物でもないんだ。もしも誰かが突然、「私、詩を書いてるんだー」って告白したら、僕は「そ、そうなんですか、へぇ・・・」って、ひきつった笑みを浮かべて、なんとかその話題をいなそうと試みてしまうだろう。正直、そんなこと言う人と、どう接すればいいのか迷っちゃうよね。それどころか、詩作を通して知り合って、僕達結婚しました、なんて展開になっちゃったらもう絶望的だよ。シェイクスピアの戯曲からナンセンスな引用をしてみたり、僕たちは言葉によって結婚初夜さえ欺瞞で塗りつぶしてしまうだろう。でもそれは詩人に限らないよね。僕はむしろ詩人が苦手なんじゃなくて、修学旅行の班決めが苦手だったみたいに、結婚初夜が苦手なのかもしれない。だから僕は上記の文章を読んで嫌な思いをした方々に、謝罪するべきなのかもしれないな。あてつけをしてしまい、ごめんなさい、って。
―――奈良が、燃えている。俺たちの、奈良が。
世界中の教会がいまここに降りそそぐ。世界中の海がいまここに降りそそぐ。「抱く」「濁」「諾」「駄句」「だく」「ダク」スペースキー、スペースキー、スペースキー、を、連打、連打、連打。少女に見えた定規を拾い。チョコレートに見えた定規を拾い。舐めれば、苦く、噛めば、痛く。自給740円のアルバイト生活を喩えるならこんなもんか。
天国と地獄の距離が、俺にとっても、両者にとっても、最も接近するのはマスターベーションで果てる瞬間。俺のペニス越しに、天国と地獄が接吻する。天国と地獄のフェラチオによって、俺は射精する。俺が俺の名字や名前を改名できるのならば、俺は俺の嫌いな奴の名前になりたい。そして俺が自身の退廃によって、そいつらの名前を貶めるってわけ。俺は名詞になりたい。俺はあらゆる鈴木になりたい。佐藤になりたい。はからずも、俺を語れ。
世界中の雨を、いまここに降らせる。世界中の畑に打ちつけられる農夫の鍬を、いまこの掌に打ちつける。世界中の森林を、いまこの肺腑に敷き詰める。ドアノブを内側から破壊すれば、もう永遠に開くことはない。世界中の宗教勧誘者が、いま俺の部屋のチャイムを鳴らす。ドアをドアが訪ねない様に、俺という人間を訪ねる者も居ないのだろうか。海に見えた30cm定規によって、いまここで、まっすぐに沈んでいく。海水に開かせた貴女の死体の腐った口の中めがけて。
リア充は爆発しねえよ。てめえら頭大丈夫か?いつか俺も、あらゆる街灯が跡形もなく砕け散った街で、月光に触れてみる様に言葉を綴れたならば。飽きもせず揺らすこの手。深夜だし、ヒトデを天井に貼り付けてもみる。携帯電話から、人手が足りないんだよ、人手が足りないんだよ、いますぐコンビニに来て下さいよぉ、ゴルァアア、あああ、幻聴だとわかっていても、店長ごめんなさい、店長ごめんなさい、と、声に出して、ペニスをしごきながら。ねぇ、店長、知っていましたか、ヒトデの五本の角、あれって、触手なんですよ、伸びたりするんですよ、ある一本だけが。ねぇ、店長に手が四本あれば、人件費を一人減らせますのにね。あと、どうか、電話はやめてください、メールにしてください。だって、声は、振動だから。僕、嫌なんです、敏感になっているんです、物音っていうやつに。うちのアパート、壁が薄くって、あってないようなものなので。大学の一個上の先輩が、男女の友人を連れ込んで、毎晩、毎晩、夜が明けるまで、酒を飲んで、馬鹿騒ぎをしているんです。注意したら、それすらパーティにおける馬鹿笑いの種にするんです。こんなところに何年も住んでみてくださいよ、きっと、気が狂いますよ。あのですね、気が狂うのは、希望、希望、なんですよ。ああ、こういう生活を続けていると、静寂に、戦慄が浸透していくのですよ。気の休まる瞬間が、ついにはなくなってしまうのですよ。ついには、アパートにいても、いなくても。
ああ、僕は、日常に根づいた詩なんて書きたくない。日常は嫌な事ばかりだ。嫌な奴ばかりだ。日常に根づいた詩なんて読みたくない。読みたくないんだ。誰も書かないでくれ。誰か、人が深海で腐敗していく過程を詩にしてくれよ。バイトの昼休み中に、暗い休憩室で、携帯の画面を光らせながら、その詩を読むから。もう世界はおしまいだと、誰か、綴ってくれよ。おしまいなのは、俺だよ、と。俺の人生だよ、と。いや、俺の人生が、おしまいになるには、まだもう少し、かかるだろう、と。
今朝も目覚めると同時に夕暮れろ、夕暮れろ、と、念じ続けていました。こんな俺の言葉で空が夕暮れるには、とてもたくさんの夕暮れろが必要だ。畜生。せめて俺はどこでもいいから学校の女子トイレを利用したい。工事現場の簡易トイレに男女の区別はないけれど、哀しいかな、工事現場には汗臭いおっさんしか居ないんだ。そして俺は、トイレ自体が性別を含有しているのだと主張しはじめる。「浮浪者の唾液の染みた公園のベンチに座る女の子かな」と、一首したためる。
人が怖い。人が怖い。あなたが怖い。あなたが怖い。あなたが住んでいる場所はもう割れています。深夜だからこそ。今から僕はあなたのところへ向かい、そしてベルを鳴らし、それよりも先に窓を割り、鍵を壊し、あなたを抱き締めます。僕に駆けつけられたあなたがすでに死体だったらなおさら言う事なしです。三度の飯より正露丸が好きって事になってる俺よもう語るな。語るな。いやいや、俺はまだ語るぞ。語るぞ、俺は。あくまで、語る。おいこら、俺は明日死ぬぞ。お前ら俺を止めろよ。おいこら、これがお前らの趣味だろ。お前ら俺に言葉を贈ってみろよコラ。それよりも酒よこせよコラ。てめえ、おい、てめえ、おい。おい。コラ。ちなみに。これは詩だから。俺の思想じゃねえから。とりあえずお前ら全員自分の内臓ほじくり出してそれだけを食って生き長らえて消化されない苦しみを憶えてから呼吸を終えてみせろ俺からは絶対に見える事のない遠い淵で。