水溶性キネマ
るるりら

水溶性キネマ


記憶の階段を一段一段昇るたびに
潮のように満ちてくる

おじぃちゃんの机のうえには
馬の毛
たぬきの毛
頬にやわらかいリスの毛
お米にも描けそな麝香猫
ありとあらゆる獣の毛の筆が屏風のようなものに
吊るされています
牡蠣殻が腐ったような匂い
なにかの液体を煮溶かしているのです
机の上には
花 一輪
 
白い紙の上を
仙人のような手つきが 滑ります
花を描くつもりだと言うのに
一学期が終わっても
皺の多い手が 塗っているのは白い画面です
「胡粉と云うのだよ」
ひとはけごとに なにかきらめきます
みたこともない沙漠の風紋が現われます 
謎の液体の中には真珠の粉が隠れているかのようです
「いや ほんとに 貝を砕いてできている絵の具なんだよ」


光の粒をふくんだ海のにおいを
ひとはけ 腕を弧のようにまわして
飛行機雲のように もう ひとはけ 
ひとはけごとに 光の砂丘で満ちてきます









いつのまにか えらく時間が経ったのかもしれません
もうすっかり星霜という言葉の美しさも理解できるほどです
とっくりと くらくなった心のまま 瞼を
閉じると 一瞬にして
輝く砂丘が
うごくのです

常に映し出される
ひだまり
しだいに 
中心から滲む
薄紅色
あの日の牡丹の花が咲いてゆく


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即興ゴルコンダ(仮)参加作品。
http://golconda.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=4984940#10919040
題名は こうだたけみ さんです。


自由詩 水溶性キネマ Copyright るるりら 2014-12-12 02:21:07
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