挨拶
北井戸 あや子
おはよう、と世界に挨拶をする
夜を朝が塗り替えている隙に
おはよう、と
返事が無いのは忙しいから
コンクリートを蹴り出す
未明の刹那
口角を歪ませる
少年は裸足のまま
ぶち撒けた
それらは
おはようか
焼け付いた憎しみか
それとも気怠い諦観か
ただひとつ
少年は消えた
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こんにちは
彼女は繰り返す
同じ言葉を
彼女をつくった人が
唯一彼女に教えたものだ
こんにちは
彼女は繰り返す
その意味さえ解らぬまま
機械的に
雨濡れのまま
こんにちは、と
だけど
機械ではないから
雨ざらしでも
彼女は壊れない
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墓守りの老女が
天の川に流された夏は
星がとても綺麗な夜でした
鳴いて鳴いて死んだ蝉を
キャンプに行く途中の家族の車が
知らない内に轢き潰したその夜に
また蝉がパタリと地面に落ちました
夕立ちに見舞われて
急ぎ足に墓場をあとにした
寝苦しいお盆の夜
涼みに網戸に近づくと
ヤモリが一匹へばりついていたので
少しの間眺めていたら
早く寝なさい、と声がしたから
羽虫を喰おうとしているヤモリに
おやすみなさい、と
挨拶をして
眠りに就きました
おやすみなさい、と
言って廻る
瓜売りの少女は
真っ赤にぱっくり口開けて
押さえ付けられ
まだ早い
おやすみなさい、を
させられました