挨拶
北井戸 あや子

おはよう、と世界に挨拶をする
夜を朝が塗り替えている隙に
おはよう、と
返事が無いのは忙しいから
コンクリートを蹴り出す
未明の刹那
口角を歪ませる
少年は裸足のまま
ぶち撒けた
それらは
おはようか
焼け付いた憎しみか
それとも気怠い諦観か
ただひとつ
少年は消えた
====
こんにちは
彼女は繰り返す
同じ言葉を
彼女をつくった人が
唯一彼女に教えたものだ
こんにちは
彼女は繰り返す
その意味さえ解らぬまま
機械的に
雨濡れのまま
こんにちは、と
だけど
機械ではないから
雨ざらしでも
彼女は壊れない
====
墓守りの老女が
天の川に流された夏は
星がとても綺麗な夜でした
鳴いて鳴いて死んだ蝉を
キャンプに行く途中の家族の車が
知らない内に轢き潰したその夜に
また蝉がパタリと地面に落ちました
夕立ちに見舞われて
急ぎ足に墓場をあとにした
寝苦しいお盆の夜
涼みに網戸に近づくと
ヤモリが一匹へばりついていたので
少しの間眺めていたら
早く寝なさい、と声がしたから
羽虫を喰おうとしているヤモリに
おやすみなさい、と
挨拶をして
眠りに就きました
おやすみなさい、と
言って廻る
瓜売りの少女は
真っ赤にぱっくり口開けて
押さえ付けられ
まだ早い
おやすみなさい、を
させられました










自由詩 挨拶 Copyright 北井戸 あや子 2014-12-11 21:27:11
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