ボクの名画座—映画あ〜じゃこ〜じゃ—第四館
平瀬たかのり

 前回、女の子が元気な映画をご紹介させていただきましたので、今回は私情に残る男の子が暴れまわる映画を、ご紹介。最初はそういう意図はなかったのですが、結果的にそうなってしまったわけで。
 高倉健さん、菅原文太さんへの哀悼の意も込め、第四館<男汁噴出編>開演! 行くぜ野郎ども!!


?『どついたるねん』(1989)
 <監督・脚本=坂本順治>

 シナリオとして復帰戦にいたる経緯が乱雑に描かれすぎだと思う。そのリアリティーの不満は残る。ストーリー自体とても荒っぽく流れて行きますしね。
 けれどこの作品は、ボクシング、ボクサーに対する愛と熱に満ちている。観ている者を「どついたるねん!」と作品が言っている。それは映画という表現形態にとって、いや、どのような創作ジャンルにおいて最も大事なことじゃないだろうか。
 復帰戦直前、赤井を実際に再起不能に追いやった大和田正春とのシャドーボクシングの場面の、鳥肌たつほどのカッコよさ! このシーン観るためだけでも鑑賞の価値ありです。


?『ダイナマイトどんどん』(1978)
 <監督=岡本喜八、脚本=井手正人、古田求>

 映画で漫画を作ってる、その見本のような作品。
 ヤーさんがドンパチの代わりに野球で決着、オトシマエつける映画です(笑)。まあ派手なドンパチもやるのですけどね。
 荒唐無稽の中にも人情の機微あり。 脳ミソ空っぽにして楽しめます。 とりわけ北大路欣也の投球フォームの美しさったらない。
 文太さん追悼として、これこそ地上波でやってほしいんだけどなあ。
 さあ、みなさんも落ち込んだときは足踏み鳴らして言いましょう。
「ダイナマ〜イト! ど〜んど〜ん!!」


?『幸福』(1981)
 <監督=市川崑、脚本=日高真也、大藪郁子、市川崑>

 海外ハードボイルドの巨匠、エド・マクベインの原作を、邦画界のこれまた巨匠、市川崑が監督した作品。ハードボイルドというよりも、日本的な哀切や人情を押しだした作品になってて、それが成功しています。本筋のストーリーはちょっと二時間ドラマ的ではあるのですが。
 主人公の刑事は、嫁さんに実家に帰られた「クレイマー・クレイマー」な状態(喩えが古い……)。その描写が濃やかで実にいい。水谷豊って名優だよなってつくづく思う。子役二人の演技も上手くはないんだけど、本当に胸に迫ってくる。あざとさが全くない。
「父親って、親子って、家族って、恋人って、夫婦って、正面から向き合うと、きっと、こんなに切なくって愛おしいものだよな」と思わせてくれる、巨匠が作った一大佳作。


?『青春デンデケデケデケ』(1992)
<監督=大林宣彦、脚本=石森史郎>

 これ、確か学生時代に観てるのです。二十年以上ぶりに観返して思いました、「こんなに面白かったか!?」って。
 実はこれ再鑑賞するまで『ねらわれた学園』『彼のオートバイ、彼女の島』『ふりむけば愛』などを観て大林作品には正直いい印象持ってなかったのですけれど、いい意味で裏切られました。
 海水浴の場面なんか何回観てもときめくな。このトキメキはたぶん男の子として正しいはずだな。
 控えめなヒロイン役の柴山智加さんは現在も役者として頑張っておられるようで、嬉しいなぁ。こういう女優さんこそもっとメディアに出てほしいのだけど。
 舞台を原作通り観音寺市にして、ちゃんと讃岐弁使ってる。そういうリアリティーが観る者に響くんです。タイガースのメンバーだった岸部一徳が理解ある教師役やってるのも観ててニヤッとします。
 デンデケデケデケ! 若き日の浅野忠信もピカピカに輝いてて、いいぞこれ。
 まっとうな音楽映画って、やっぱりいいわぁ。


?『トラック野郎〜御意見無用〜』(1975)
 <監督=鈴木則文、脚本=澤井信一郎、鈴木則文>

 本作だけじゃなく『トラック野郎シリーズ』全てに言えるんですけれども、ひとことで言うと「B級映画」なんですよ『トラック野郎って』。
 全編エピソード詰め込みすぎだし、ヒロイン登場場面の<バックでお星様キラキラ>なんて陳腐極まりないったらないの。くだらないギャグに下品、お下劣満載だしさぁ。
 でもなぁ〜、でもなぁ〜。やっぱりエエのよ。何回観てもエエんですよ。
 こんなさぁ「人情に篤い」映画、今こそもっともっと作ってくれよ。観に行くよみんな。
 これはですね「映画は誰のためにあるのか、批評家や作り手のためにあるんじゃない。日常の地べた毎日はいずり回ってるアンタのためにあるんだ」って高らかに謳ってる作品だと思う。
 夏休み、毎年民放でジブリもいいけれども、これをこそ放送するべきなんじゃないかなぁ、今こそ。でもトルコ風呂(あえてそう書きます)の場面とかブツブツに切られて放送されても腹たつばっかりかぁ。
 しんどいことがあっても「明日の休みは、録ってる『トラック野郎』観よ」と思ったら、生きていける…そんなふうに思える作品ってスゴイですよ、やっぱり。
『トラック野郎』は走り続ける。文太さんがいなくなったって、この世に男の子の純情と勘違いと、どんぶり飯とレバニラ炒めと、脂汗と脱糞が存在する限り走り続けていく。


?『八甲田山』(1977)
 <監督=森谷司郎、脚本=橋本忍>

「上層部と現場の乖離問題」が大きな一つのテーマ。その上に「現場に上層部の人間が入ったときに起きる悲惨な結果」も描いています。これは近年の『踊る大捜査線』シリーズにも共通する普遍的なテーマだと思います。
「天は我々を見離した……」北大路欣也の名台詞とともに語られることの多いこの大作ですが、もう一方の部隊長、高倉健が部隊全員整列させて命じる場面があるのです、秋吉久美子演じる農家の娘案内人へ「案内人どのに、頭、右!」って。で、秋吉久美子恥ずかしそうに頭下げて笑って去っていく。
 浪花節的ではあるけど、あそこが本当にいいのです。あの場面で「大事なのは現場なんだよ、現場を知ってる人間なんだよ。そして人の気持ちってやつは立場を越えて大事にしなくちゃいけないんだよ」ってことが伝わってくるのです。


?『日本の黒幕』(1979)
 <監督=降旗康男、脚本=高田宏治>

ロッキード事件の際、その黒幕とされた児玉誉士夫をモデルにしたであろう作品。たぶんにフィクションの部分があるんだけど、でも明らかに「あいつが、あの事件がモデルだ」と特定できる作品を、年月さほど経てないうちに作ってしまう「訴えるなら訴えてみやがれ」的なブチ切れた「東映パワー」には圧倒されてしまいます。
 主役の佐分利信の重厚な演技がすばらしい。全体に同性愛臭がそこはかとなく(明らかにか?)漂っていて、それがうまいこと作品のキワモノ感を救っています。


?『県警対組織暴力』(1975)
 <監督=深作欣二、脚本=笠原和夫>

 脚本‐笠原和夫、監督、深作欣二コンビというのは、ヤクザとか警察という「強いもの」の姿を借りて、人間の弱さをきっちりと描いていると思うわけです。
「仁義なき戦い」シリーズでヤクザとして暴れまわる面々を、警察官として揃えたこのキャスティング、見事な企画の勝利。
「わしゃぁこの目で極道見とるんで! 上だけ見とるオドレに何が分かるんどっ!」文太さんのこのセリフに象徴される<現場と上層部の乖離問題>というのは、やはりこの時代から脈々と受け継がれる邦画の重要テーマ。
 この作品で特筆すべきは川谷拓三、拓ボンの取り調べ室での文太さんからのやられぶり。伝説の名場面と言っても過言ではありません。彼ほど痛めつけれぶりが絵になり画になった役者はもう出て来ないでしょう。ボクの中では重要無形文化財レベルに達しています。


?『ヒポクラテスたち』(1980)
 <監督、脚本=大森一樹>

 ずっと観たかった作品で最近ようやく鑑賞かないました。
 ストーリー展開も冗曼なところがあるし、群像劇としてもやや弱いように思う。
 だけどこの作品には、大森監督の「熱」がほとばしっている。「俺はこういう映画作りたかったんじゃ! おれは医学生だったけど、こういう映画を世界に叩きつけたくて映画監督になったんや!どや!」という青春の熱に押され最後まで観てしまったように思う。
 名画、佳作というより「熱画」ですね、ボクにとって。今の医学生が観たらどんな感想抱くのか、興味があります。
 みんな若い。蘭ちゃん(伊藤蘭ね)は自然な演技でホント上手いなぁ。そりゃ普通の女の子で収まりつかなかったはずだわ。そして古尾谷さん、あなたがいないことが淋しいよ。こんな熱い映画の主役張ったあなたが自ら死を選んでいい理由なんて何一つなかったよ……


?『蒲田行進曲』(1982)
 <監督=深作欣二、脚本=つかこうへい>
 
 これまでの人生の中でたぶん一番観返してる作品。『竜二』とこれが私情ベスト5から外れることはきっとないでしょう。
 二十歳前後のころ、嫌なことがあったり、やりきれなかったりしたら、決まってこれ借りてきて最後の階段落ちの場面で大泣きして、無理やり元気出してた。馬鹿ですねぇ我ながら(笑)つまり自分にとってそういう作品なわけですよ、これは。
 大好きな作品って、語ることはできてもその良さを書き言葉で伝えるのって本当に難しいなぁとつくづく。つまるところ「とにかく観て!」に収まってしまうわけで(笑)。
「人間の面白悲しさ、悲しき面白さを濃やかに描いてこその映画」という映画鑑賞者としてのボクの基本的スタンスは、この作品に出合ったからこそ確立されたのだと思ってます。
 以下、忘れられない台詞をボクの記憶に残っているままに。
★「このバカでかい階段途中からぶった切ってぇ! 平和ニッポンにふさわしいセコーイ階段に作りかえますか」
★「馬鹿野郎、キャデラック乗るのに免許がいるかよ!」
★「この倉岡銀四郎が飲んでる店は何てんだって聞いてんだ! 答えねぇと火ぃつけるぞこの野郎!」
★「何が気にいらねぇんですか銀ちゃん! 監督ですか! 立花ですか! 俺今から行って殺してきましょうか!」
★「……灯り、消して……」
★「これが、コレなもんで」
★「大事にしてね。わたし、むちゃくちゃ甘えるからね」
★「うちはかまわんよ。おなかの子が誰の子でも」
★「ねぇ、銀ちゃんってどんな顔してたっけ。忘れちゃった……女って薄情ね」
★「後悔するわよぉ! でも、さよならぁっ!」
★「戸籍は屁よりも劣るのかっ!」
★「お前を好きになればなるほど、哀しいんだよ、この心が…、切ないんだよな…」
★「ねぇ、帰って来てくれる? 帰ってきてほしいんだなぁ今夜は」
★「とうとう俺を人殺しにしやがって……」
★「生まれたいか。もう少し待つんだよ……」
★「俺にも一生に一度、役作りってやつをさせてください……」
★「どうしたヤス! 這ってこい! 昇ってこい! ここまで!」
★「銀ちゃん、かっこいい……」
★「あんたぁぁっ!」

結論=男の子のココロを熱く、篤くさせる映画を、いまの時代もっと!



散文(批評随筆小説等) ボクの名画座—映画あ〜じゃこ〜じゃ—第四館 Copyright 平瀬たかのり 2014-12-09 14:19:26
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