母八十二
たま
着ぐるみの人の世に生きて熊さんは今年定年なんだという
嫁の半ばっちゴムが弛んで履き頃とゆずってもらって二年
2032年まで予約でいっぱい死に切れません団塊のひとは
親指赤切れてギターが弾けない団塊のソングライターぼく
魂なんてどこの馬の骨だかわかりゃしないと卑弥呼がいう
ににんが四 ごろく三十 さざんが九 しし十六で 母八十二
あの世の手前に河が流れていてあぶないからとプールに通う
ゆく年もくる年もみな等しいと信じています特老のひと
八十過ぎたらシートベルトはいらないデイサービスの往路
カラーは三万モノクロ一万五千、母の遺影はコピーでいいか
家族葬できるほどの金もなく人もなく台所葬でいいの
生活保護が頼りの喪主に財布を見せてと窓口のひという
切符のような落ち葉舞う無人駅帰るひとのない始発駅
来年の話は鬼が笑うと母まだこの世に籍残す
灰色の雪雲かたく口閉ざし母の寿命は語らず
永遠はあるわけもなし来るわけもなし母ひとりネコ一匹
大きな数字のカレンダーがほしいと母の声十二月
森々と降る雨の街ひととイヌ流されて海の森に帰る