詩人四態
山人

春になったら握り飯をもって山に行こう
ほつほつと出狂う山菜たちの
メロディーを聴きに
ポケットの中には手帳と鉛筆をねじ込んで
いただきに立てば、ほら
風が眠りから覚めて
息吹を開始する
虫たちもよろこんでいる
だから僕は鉛筆を舐めて
もくもくと詩を書くんだ
蝶々が飛び始めると
詩ができあがる
ほら、できたよ
詩ができた
だまって樹皮を舐めるカタツムリに
僕はそうっと詩を見せる
ほら、ぬめりのある皮膚が
よろこんでいる
僕の詩をよろこんでいるよ




寂れた地下室の中で、男たちは裸になり、互いの性器を見せ合っている
その大きさを競うわけでもなく、ただ柔らかな手やごつごつした手で互いの性器に触れたり撫でたりしているのだ
だが、同性愛ではなく、あくまでも無機質に観察しながら触れている
性器の触手観察会が終わると、次に脳を見せ合う儀式が始まる
エナメル質の頭蓋を取り外し、粗脳だよ、とか、少し弾力は薄れているね、とかの話し合いの場がもたれる
血液検査もよく行われるようだ
骨粗鬆症の話も出てくる
それらの観察会が終わると、つぎは思考の競争が行われる




詩人が街を歩いている
シャツはチェックで
手にはソロバンを持ち
麻のマフラーを首に捲き
ひょろ長いキセルを咥えているのだ
頭全体が薄い樹のウロで出来ていて
所々に苔を生やしている
目玉は無く
その部分から
靄がふわふわ漂い
ゴミ虫がするすると蠢いている
頭頂には宿木が実り
四十雀がジャージャー鳴いている
詩人の頭の中には
一本の線が針金のように曲がり
その先に枯葉がついている
枯葉の真ん中に
虫食いの痕が残っている
脳など無く
一枚の古い皿が置かれ
そこにちろりと蝋燭が灯され
皿の端には
魚の骨が置かれている
ちなみにキセルを咥える口は無い


男が詩を書いている
満遍なくちりばめられた言葉の群落、それは豊かな水辺をささやきあう野鳥の群れのようでみずみずしい
大きな言葉の背中に小さな野鳥がのる
遠くから隊列をなした、水鳥が水しぶきを上げながら着水する
水のように言葉は自由さを得ている
空は押し黙り、やがて来る悪天に身じろぐことなく、湖面は言葉を続ける
詩は拡張する、重さ、軽さを自由にあやつり、時の流れまで操作してしまう
男はうたう、そして発狂する、その発狂体が粒子となって湖面を浚い、詩は離陸した


自由詩 詩人四態 Copyright 山人 2014-12-04 17:50:16
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