乗り合わせ
為平 澪
平日午前十一時四十分発の
高速バスに乗る人は
どこか イワクつき
一番初めに声をかけてきた おじさんは
昼間から泥酔していて
小さな透明のペットポトルの中に
日本酒を入れていた
「お嬢ちゃん、いっつもなぁ、この時間は
空いとるさかい、時間より早うバスが来るんやけどなぁ〜。」
好い気分で分厚い唇から酒臭いにおいが
暗い鉄橋下の高速道路を 益々錆びつかせる
訳ありのセールスマン
同じ安いビジネスホテルから出てきて
何処へ行くのか
黒い重そうなキャリーケースを側に置き
秘密書類を見るような鋭い幾何学の視線
が、映す 腕時計の針の一秒先
流行りの布リュックにカンバッジを幾つも付けた
二人連れの女子中学生は 乗車と同時に
スマートフォホンで 無言の会話
切符には 囚人のように 赤い数字の番号
私たちは 何処に向かうのだろう
道路から私たちを覗き見していた
巨大な看板たちから バスが逃げ出すと
真っ黒いトンネルが・・・
巨大な口を開いて 待っていた