ピースサインのむこう側
吐水とり

ピース、ランドセルのぼくらは歯科医院があくまの要塞だった
痛みもかなしみもいつかぶっつぶせると思ってた
竹馬にのりたくて血豆をつぶしながら
太陽にゆびさきふれた、ふれたぼくらはピースをした

ピース、歩道橋のうえで仮想世界とかけ引きした
ひみつの合い言葉をつくってはくすくす笑った
電話ボックスへの侵入に成功しデタラメな番号をおした
受話器に「応答せよ」とささやいては外の仲間にピースを送った



ねえ、
なんでいっつも
写真とるときピースしてたの?





ピース、遠足で流行りのスニーカーをずっと自慢してたあいつを
自由時間の鬼ごっこのときはくちょう池に突き落とした
担任の先生のこころからつめたい目を生まれてはじめて見た
集合写真、ぼくのピースは震えてぶれた

ピース、マラソンのあとの国語の授業はぼくのまぶたを絶えずなでた
斜め前にすわるきみの小さな頭をぼんやりながめた
不意にふりかえったきみは声をださずにぼくの名前よんで、わらった
ぼくはわざと眠そうな目でこっそりピースをしてみせた




ピース、
こころの中を教えるのが苦手だった
つたえようとすると
舌がすべってころんで痛かった

ぼくらはピースしか知らなかった

ぼくらはピースをくり出した、

それで伝わるとおもってたんだ





ピースピース、おとなになったぼく
アルバムながめて笑うのはいいけど


どこまでこころを思いだせる?
どこまでぼくらをおぼえている?


自由詩 ピースサインのむこう側 Copyright 吐水とり 2014-11-29 20:52:17
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