オフィスワーカーの情景(四作)
乾 加津也
朝礼
フロアの中心に固めた事務机の島を囲むようにして立ち
輪番制の司会者のもとに
一人ひとり何事かを発声することが期待されていた
しかし外線が鳴ると朝礼も一時中断して
近くのだれかが受話器を取る
外線が鳴る
/誰かが取る
外線が鳴る
/誰かが取る
外線が鳴る、外線は優先して
誰かが
/取る
ご来社
朝の申し合わせの来客に
女性社員はすっと席を立ち
お茶を淹れはじめる
お越しいただいたお客さまへ
おもてなしの動きに
一寸の無駄もない
あいにく鈴木はただいま会議中でございます
プロダクト・アンド・リカバリー・ジャパン社の安倍さまからの電話
鈴木は会議中であることを申し上げ
伝言(ことづて)を記録するボールペンで
折り返しお電話
わたしはメモ書きを手元に置いた
三十分後に安倍さまから鈴木くん宛に二度目の電話
佐藤さんが
鈴木はあいにく会議中である旨を申し伝え
折り返しお電話がほしいそうです、のメモ書き
佐藤さんはもちろんわたしのメモ書きを知る由もない
すこし強張った面持ちで鈴木くんが会議から戻ってきたとき
佐藤さんが先に鈴木くんにメモ書きを渡す
困惑の色をよぎらせ鈴木くんが電話をかける
平謝りを尽くして鈴木くんは受話器をおろした
電話が終わった頃合いに
わたしはわたしのメモ書きを鈴木くんに手渡す
すると鈴木くんの顔が見る見るうちに溶けはじめ
鈴木くんは人ではなかったことが誰の目にも明らかになった
ひら、ひらひら
乱雑なメモ書きが
鈴木くんの上に舞い落ちた
ホウレンソウ
登場人物の多い
業務上の不祥事と
これに対処した状況、及びその理由を
怒り心頭の上司に伝えるのは至難だ
主語は何だ、おまえは何が言いたいんだ
つくづくという風に
あいつは日本語がわからない
そんなはずはないのだが