nonya


久しぶりに息継ぎしたら
歯磨き粉みたいな
ノスタルジイが
喉に染み渡った

垣間見た空は遠すぎて
その場限りの
センチメンタルなんて
届きそうになかった

きっぱりと反転して
水の下に沈み込む
過剰な硬さの鱗を
鈍く光らせながら

鰓呼吸をし始めたのは
いつ頃だったろう

翼だと思い込んでいた
背中の突起物が
実は貧弱な背鰭だったことに
気がついた時からだろうか

揺れる水藻に身をひそめて
休日の雑踏に消えた
掌の温もりを
鰓で思う
記憶を鰓呼吸する

気紛れな水流をかわしながら
呆気なく煙になった
広い背中を
鰓で思う
時間を鰓呼吸する

ときおり夢やら希望やら
青臭い肺呼吸の
ささやかな痕跡を
鰓で思ってしまい
むせ返ってしまうけれど

鰓呼吸できなかった
溜息は気泡となって
ゆらゆら立ち上り
いずれ水面で弾ける

ぱちんと弾けてしまえば
歪んだ空で弾けてしまえば
綺麗に忘れることができる
鰓で忘れることができる




自由詩Copyright nonya 2014-11-22 23:06:24
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