栞に
竹森
粉雪が
路地裏で密談をしかけては
欠けてゆき
書物の名前を尋ねる人
でした僕は
あの秋
黒髪の少女と
制服を着飾る術を知って
いつまでも
知りませんでした
「おはよう」で始まり
「おやすみ」で終わる
そんな物語だった様な気がします
語るとは目の下の隈を撫でることで
十月の駅に改札口を設置して
「待っていますか?」
と尋ねる度に利き腕を挙げ
かけたあなたは書物を開いて
(ねえ、蛙と水たまり。乾くのはどっちが早いかな?)
いつも同じ
栞を挟んでいましたね
きっと
抜け出せませんでしたが
きっと
書物の真ん中の一番深い窪みを
抜け出そうとしていました
だってあんなにも
哀しみに満ちた表情が
だってあんなにも
頑なに閉じた脚の付け根に
ヒタヒタと垂れ落ちては
少しずつ濾過されていく過程の
書物のあの緩やかな
しかし頑なな傾斜の角度
それでも
ついに
草臥れた書物から
抜け落ちた栞を
あなたの影は
抱きしめながら
見送りました
僕は
あなたや
誰かの落した
栞を拾い集めて
誰かの丸めた
日捲りカレンダーを
広げ重ねて
僕は
月日を
そうして
(行っては)
結末の知られた書物
(戻る)
みたいに
眺めて
「誰も待っていません」
と
頬笑めば
突き出た頬骨が
十月に舞う粉雪に触れて
(それからは)
(もう)
(夢を憶えるように)
嘘は
嘘では
なくなり