水面に垂らした絵具みたいに ほか3篇
きりえしふみ

  水面に垂らした絵具みたいに


水面に垂らした絵の具みたいに
ぼくらの想いは留まることなどないのだけれど
異なる2つの色がきれいに混じり合うみたいに
異なるぼくらの手と手が重なりあう内は
ぼくの心を伝えようと試みる
きみの心に耳寄せようと思う

水面に垂らした2色の色のように
ほんとうは1つにはなり得ない
変わりゆくぼくらではあるにせよ


〜〜〜〜〜〜
  「生きている」らしきもののあいだで


「分かっている」
ううん
ほんとうのところは
分かってなんかない

「信じている」
ううん
ほんとうのところでは
願掛けしているに過ぎないのかも

「分かっている」
と見きり発車して
「信じている」
と言い聞かせて
それでも走り出さなきゃ
一瞬の内に骨と皮になってしまうから

ぼくらのあいだで真実は半永久的に押し黙ったままだとしても


〜〜〜〜〜〜
  妄想の病


「きみのことが好きだ」って ある日
窮屈な心から想いが飛び出そうと無為な試みを繰り返すことで生ずる胸の痛みで気づいた
自分の目もまともに見れない
気の迷いだと思いたかった
どんなに逃避を願っても
いまのぼくはこの無意味そうな想いとセットで
きみがいまいる場所なんか知り得なくても
勝手に心だけできみにフライングしてた
ぼくはすっかり思考と云うものを手放して
妄想とそれが招くこの息苦しい感覚の奴隷と化した
この病を癒すには
いまのぼくにとっては「気の遠くなるような年月」による想いの鎮火を待つか
きみからの優しい返答と抱擁くらいしか手立てはないのだが

きみを前にぼくの唇は快活な言葉を出なくさせ
微笑みさえ押し留めようとする
主人に不服従な家来のように

「きみのことが好きだ」
なんの変てつもない言葉がぼくの内面をぐるぐると巡る
目眩と吐き気が交互に または同時に生ずる
返品されたら立ち直りに時間を要する言葉
無防備にも差し出さないことには どうにもならないけれど

か弱げなきみは知っているだろうか?
本物の軟弱者とは ぼぐのことで
ぼくの実権を握っているのは きみであることなど


〜〜〜〜〜〜
  違う空は同じ空


まるで幼い子供が親を想うよう
見返りなんて気にしない
自分のことなんて振り返らない
今日が晴れであっても
激しい雨と風に視界が遮られても
ただ一途に同じ空を見上げてる
同じあなたを眺めている
あなたが泣いても笑っても
その下にはきっと同じ人が佇んでいる

まるで幼い子供が隣の子を想うよう
静かに心はあなたに寄り添う
自分のことなんて気にしない
こんな穢れのない想いが
まだ私にも残っていた

明日青空が広がっても
雪が世界を覆っても
変わらずあなたを思っている

七変化する表情の奥の方で
私たちの大空が悠々と閃いていた


(C)kirye shifumi 2014/11/9


自由詩 水面に垂らした絵具みたいに ほか3篇 Copyright きりえしふみ 2014-11-15 20:43:08
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