更地にかえす
塩崎みあき

さよならもうここに残されたいかなるものも認識しない

目に見えるのは常に更地だった
至る所に巡らされた有刺鉄線を触るので
手のひらはいつも傷ついていた
傷が膿むなどという事は
考えつきもしなかった
夕暮れに拾う落穂もなかった

いつもひとりで遊んだ
私は主張すべき場面になるとなぜか黙って
かるく微笑んでいればいいと思うたぐいの人間で
それではキミの心なんてだれにも伝わらないよ
と他人に言われたとき
怒って泣いた

牛という動物が疎ましかった
私と似ているから

この町の申し訳程度の繁華街に
「1/24」という名のバーがある
24時間中の1時間を過ごす場所という意味合いだと推測するが
読み方が分からないので入った事が無い
うっかりその店に入ったとして
間違えてよんでしまったらと思うと恐ろしくてたまらない
店の小さなドアは異様に赤く
前を通るたびに
片思いの相手のちょっとした動作に絶望するような気持ちになる
そんな小さな傷を負ったまま週に三度通う喫茶店に到着すると
前触れもナシに閉店していた
頭の中で
「1/24」の1を反芻してみる
シオドキとはこういうことか

悲しくなどない
もうすぐここも引き払うのだし
またゼロから始めるのだ
知らない土地で
ひとりで


自由詩 更地にかえす Copyright 塩崎みあき 2014-11-14 03:24:01
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